往診専門動物病院わんにゃん保健室では、さまざま症例に対して最良の往診獣医療を模索し、提案し、提供することを大切にしています。
今まで出会った症例のほんの一部分ですが、以下に抜粋してみました。
・動物病院に通院することが本当に苦手
・通院ではなく、家で皮下点滴をしたい(腎不全などの慢性疾患)
・とにかく通院ストレスを無くしたい
・酸素室から出すことができない
・最後の日を一番大好き家の中で迎えさせてあげたい(ターミナルケア)
ご家族様の心の中に溜まっている言葉がたくさんあればあるほど、初診時の問診は長くなる傾向があります。十分な時間を割かせていただき、長いときには2時間以上かけることも多々あります。
わんちゃん・猫ちゃん、そしてそのご家族様が何を求めているか、そしてどこまでできそうか、生活環境などを踏まえ、現段階で最良と思われる診療方針をご説明させていただきます。
この時決めた診療方針が絶対ではなく、時間の経過とともにペットの状態も然り、飼い主様のしてあげたいことにも変化が出てきますので、その時には都度ご相談いただき、臨機応変に違う方針をご提案させていただきます。
今回ご紹介するのは、慢性腎不全の猫のうーちゃんのお話です。
出会って1年7ヶ月、18歳を迎える少し前に、最後の時間を大好きなお母さん、お父さんに見守られながら、目を閉じました。とても静かな最後だったと伺っております。
初診 うーちゃんとの出会い
うーちゃんとの出会いは、2019年5月13日でした。元気食欲はまだありそうだが、少し下がってきていて、便秘気味だとのことでご連絡をいただきました。
かかりつけの動物病院では、2016年5月に慢性腎臓病と診断を受けており、頻繁に動物病院への通院を指示されており、通院すると1時間ほど待って診察室で皮下点滴をしてもらい、30分ほど待合室でお会計を待つというもので、移動時間も含めるとおおよそ4時間程度、緊張して震えている猫のうーちゃんを拘束しておかなければいけないことが辛かったとのことでした。
猫ちゃんの多くは、避妊去勢手術を境に、キャリーに入ることを怖がるようになります。それでも最初の頃はどうにかキャリーに押し込めて通院させられるのですが、持病を抱えてくるとそうはいきません。
猫のうーちゃんの場合、慢性腎臓病で血圧も高いことが疑われていましたので、過度のストレスが病体急変につながることも容易に考えられます。
しかし、動物病院で今まで診察してきてもらったので、急に切り替えることが、今まで診察してくれた担当の獣医師を裏切ることになるんじゃないかと心配される飼い主様が多くいますが、決してそんなことはありません。
飼い主様しか、愛犬・愛猫のことに関して決断できる人はいませんので、勇気を持って最善だと思う選択をしていきましょう。
今回の場合は、飼い主様からかかりつけの動物病院に事前に相談していたため、初診時に紹介状と今までの経緯をまとめたものをご用意していただけていました。
初診時には、過去に行った検査データがあればあるほど参考になりますので、是非検査データを動物病院で受け取ったら捨てずに取っておいてください。
初回となる今回は、採血を行い、腎臓の数値を含めたスクリーニング検査を行うとともに、腎臓の薬がなくなっていたのでその補充をさせていただきました。
採血の間もおとなしく、うーちゃんは比較的嫌なことをじっと我慢するタイプだということがわかりました。
再診 2日目以降
結果から、尿素窒素(BUN)とクレアチニン(CRE)、リン(IP)がかなり高値で、カリウム(K)が2.5までとかなりの低値を示していました。
この日を境に、少しの間集中的に皮下点滴(注射薬あり)を実施しました。
状態が安定するまでは1日1回の往診で皮下点滴を実施していきました。
最初の1週間は毎日、次の3週間は1日おきに皮下点滴を行い、お母さんの覚悟が決まりましたので、いよいよ皮下点滴指導に入ります。
毎日私たち獣医療チームが訪問し皮下点滴を打つと費用がかなり嵩んでしまう為、できる限りご家族様だけで皮下点滴が打てるようになることを推奨しています。もちろん、できるまで指導させていただきます。
うーちゃんのお母さんの場合には、2回練習をしたら、3回目には一人で皮下点滴が打てるようになり、そのまま1ヶ月単位での診察に切り替えることができました。
なお、この時もまだ、2日に1回の皮下点滴(注射薬なし)でした。
経過観察 1ヶ月ごとの診察(医薬品の補充と検査)
毎月1回程度の訪問で、血液検査をメインとした診察を行っていきます。診察にも慣れてくれたようで、いつも「もう終わったでしょ。早くご飯出して。」と言わんばかりの表情と鳴き声でアピールしていきます。
初診のころが嘘のように元気になり、キャットタワーにも登るようになりました。
時々嘔吐や食欲不振などで、当日予約にてお伺いすることはありましたが、比較的ずっと安定してご自宅で過ごせていました。
経過観察 貧血傾向と食事量の低下(酸素室開始)
2020年の夏頃から、血液検査結果ではそこまで大きな崩れはないものの、ヘマトクリット(Hct%)が前回値からガクッと下がりました。この時から、なんとなく猫のうーちゃんの様子も変わり、1日通して運動量が少なくなったことと、食事も残すようになったとのことでした。
もしかすると、急激に貧血までのヘマトクリットに下がった可能性も疑い、ご家族様に酸素室設置をご提案させていただきました。
お父さんもお母さんも即決で、即日手配を完了させ、ご自宅に酸素発生装置を設置することができました。しかし、猫のうーちゃんにとっていつもの自分の部屋が落ち着くようだったので、酸素ケージは設置せず、いつも使っているお部屋にビニールなどを巻いてもらい、うーちゃん専用の酸素ハウスが完成しました。これはうまくいき、うーちゃんも抵抗なく入ってくれました。
すると、酸素室内だとご飯を残さず食べてくれ、酸素室を出て少しの間は結構元気に動き回るとのことでした。
ずっと酸素室内で生活させるのも可哀想ですし、この程度の病状であれば、必要な時だけ酸素を稼働させてもらうよう指示をだし、基本的には使用しない都度使用としました。
上手に使用していただき、うーちゃんの生活の質が改善されました。
しかし、この頃から、調子が悪くなった時に使用する頓服薬も一緒にお渡しするようになり、状態が下がったら使用してもらうという頻度がちょっとずつ狭くなってきました。
体調悪化
2020年12月28日に体調が全然上がって来ず、投薬できていないことを相談されたため、急遽ご自宅での投薬指導をさせていただきました。獣医師と動物看護師数人でお伺いし、状況を整理し、お母さんにやり方をご説明させていただき、挑戦してもらいました。最初は手が震えるくらい緊張していたお母さんでしたが、回数を重ねるごとにみるみる上達していき、5回目くらいには楽々できるまでの進化を遂げました。
往診で緩和ケアを実施しているなかで、一番感じるのは飼い主様の看護技術の向上です。できなかったことができるようになり、時間が経つにつれてただできるようになった状況から、上手にスムーズにできるようになっている姿を見ると、愛情ってすごいなと、心の底から思います。
こうして、その子専用24時間待機の動物看護師となっていただけました。
体調急降下
2021年1月8日に体調の低下の相談を受け、状況を整理させていただき処置内容をお伝えさせていただきました。
翌日に広く検査を行い、複数の注射薬を混ぜた皮下点滴を実施し、状態安定を目指しました。
この段階で排尿がなくなって24時間くらいとのことでした。
超音波検査では、膀胱内に尿が貯留しているのを確認はしていたので、尿はまだかろうじて作れているのだと考えました。
皮下点滴後には、ちゅ〜るを少し舐めて酸素室に戻り、その後ご飯を少し食べてくれたのですが、ふらつきやなんとなくの倦怠感は残っているように感じるとご連絡をいただきました。
その後、状態がグッと下がり、翌朝6時頃、呼吸状態がゆっくりと深くなり、静かに旅立ったとのことでした。
最後にご飯を食べてくれたのは、もしかするとエンジェルタイムだったのかもしれません。ありがとうご気持ちを込めて、お母さんとお父さんの手からご飯をもらったのかもしれません。
しかし、最後の日までしっかりと投薬できたことで、長い時間苦しむことなく吐くこともなく、静かに眠りにつけたのだろうと考えています。
何より、すぐ横に大好きなお父さんとお母さんがいてくれたからだと思っています。
往診専門動物病院わんにゃん保健室では、ペットの本当幸せってなんだろうといつも考えながら診療にあたっています。
現状、私たちの考える幸せな最後は、大好きなご家族様に見守られながら、ずっと住んでいた家で最後の時間を迎えることだと思っています。
痛みや吐き気は薬を使用することで緩和できる場合が多いです。
飲み薬が苦手なわんちゃん・猫ちゃんであれば注射薬で投与することもできます。
もし動物病院で、家で看取ってくださいと言われ、内服薬を渡されたが飲ませられなかった時は、もう何もできないと諦めてしまう前に、まずは私たちにご連絡ください。
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