犬猫を迎えた時から、いつか来るお別れに備えて、常に心の準備が必要です。
とはいえ、いざその時になってみなければ、覚悟なんてできないものです。
今回は、ゴールデンレトリバーのはるくん、11歳の元気でやんちゃな男の子のお話です。
2023年12月17日の夕方に急なふらつきを認め、かかりつけ動物病院、夜間救急の動物病院と通院し、肝臓腫瘍が見つかりました。
積極的な治療ではなく、余生を穏やかに過ごさせてあげるために、在宅医療に特化した当院の往診を希望され、2024年3月1日から在宅緩和ケアを開始し、3月7日の朝、リビングでそっと眠りにつきました。
既往歴
ガクッと状態が悪くなった2023年12月17日の朝までは、いつも通りお散歩にも行けたし、ご飯だってモリモリ食べられていたとのことでした。
夕方になるとなんとなく体調が悪そうになりふらつきも認め、夜になると、起き上がるのもギリギリなほどだったとのことでした。
翌日にかかりつけの動物病院(江戸川区)に連れて行ったところ、血腹を認め、そこでは精査できないとのことから、精査できる動物病院の紹介受診か様子見の2つからの選択を迫られ、頑張らせるのはもう可哀想だと判断し、内服薬で様子をみてあげることにしました。
2、3日すると元気さが戻り始め、1週間ほどで普段通りまで回復したとのことでした。
そのまま状態が安定した日々を過ごせていましたが、2ヶ月後の2月22日の夕方また突然立ち上がれなくなり、夜間救急受け入れが可能な動物病院に通院したところ、肝臓がんが発覚しました。
中高齢の大型犬で、急な体調不良を見せた時は、常に「がん」の可能性を疑ってあげましょう。
また、大型犬で立ち上がれない場合に、持ち上げて連れて行くことが難しい場合もあり、様子見してしまうことが多いと思います。
しかし、急激な変化は怖い場合が多いので、すぐに獣医師に診てもらうようにすることを推奨します。
もう十分頑張って幸せをくれたはるちゃんに無理させたくないと考え、攻めた治療ではなく、緩和ケアを選択されたとのことでした。
処方された内服薬を飲ませながらの緩和ケアが開始され、このまま家で看取る覚悟をされたとのことでした。
しかし、内服薬が徐々に飲ませづらくなってきて、体調の低下も著しくなり、今の状態を少しでも楽にさせてあげる方法はないかと考え、当院までご連絡をいただきました。
食欲廃絶、立ち上がれないということもあり、スケジュール調整ができたため、当日のうちにお伺いさせていただきました。
初診(往診1日目)
お伺いすると、玄関まで、なんと迎えにきてくれました。
人がとても好きだということもあり、血圧が上がってくれたのかもしれません。
一通り挨拶が終わると、ご飯まで食べてくれました。
食べてる姿を見せたかったのかもしれません。
お話をお伺いすると、徐々に元気さを取り戻してきて、散歩に行けるほどまでにも回復をするが、急にまたガクッと下がる、ということを繰り返しているようでした。
病態から考えて、おそらくガクッとしたタイミングで腹腔内出血を起こして貧血になっていると推測しました。
内服薬を飲ませられない可能性が高いこともあり、この日から、投薬を目的とした皮下点滴プランを作成しました。
大型犬で、体重も37kgくらいと大きいこともあり、内服薬にすると10粒以上は飲ませないといけません。
これがもし、注射薬への変更が可能なもので代用できるのなら、短時間の皮下点滴によるストレスだけで、何種類あってもほぼ100%投与することができます。
実際に皮下点滴で投与してもらうと、さすがの大型犬です。
全く動じずに受け入れてくれました。
朝夜2回の皮下点滴で、医薬品も複数種類使用しますが、これで状態が安定するならばと願い、この日の診察を終了しました。
血液検査も実施しましたが、全く動じずに受け入れてくれていました。
抱っこして体重測定を行うのですが、抱っこが一番嫌がっていましたね。
再診(往診2日目)
初診に続き、翌日も訪問させていただきました。
前日は夕方の訪問だったこともあり、朝分の皮下点滴が実施できたかどうか、もし難しかったのであれば、何が、どんな風に難しかったのかなどをヒアリングさせてもらいました。
朝分の皮下点滴、何事もなく実施できたとのことでした。
通常であれば、安定していることを確認すれば、この次の診察を数日あけてお伺いするのですが、はるちゃんの場合には鎮痛薬を微量に使用していることもあり、ふらつきや意識レベルの変化などを観察するために、また翌日の診察を組みました。
腹部に軽度の液体貯留、胸部に微量の液体貯留を認めましたが、特別穿刺などはしないこととしました。
再診(往診3日目)
症状もなく、安定して元気とのことでした。
この病気が発覚してから、毎日体調が悪そうだったのに対し、在宅医療を始めてからは元気さを取り戻し、お散歩に行ってトイレをしっかりするまでに戻れたとのことでした。
肝臓腫瘍からの出血が落ち着いていることと通院から在宅医療への切り替えは直線では繋がることはありませんが、穏やかな余生を過ごせていることと、在宅医療への切り替えは、あながちたまたまではないと感じています。
注射薬を用いた皮下点滴プランも無事にこなせるようになり、2日分をお渡しし、次回は2日後としました。
この日の超音波検査では、腹部の液体貯留がやや減少していることに対し、胸部の微量だった液体貯留が少し増加を認めました。
再診(往診5日目)
前日の夜から急に立てなくなってしまったとのことでした。
エコーを当てると、腹部の液体貯留が重度であることが認められました。
肝臓腫瘍からの出血による血腹です。
往診では、腹腔内出血を止めることはできません。
腹腔内出血の原因や、その時の状態、病気の種類や犬猫の年齢などによっては、開腹して出血点を探し出し、止血処置を施します。
しかし、在宅緩和ケアの現場では、血腹していても、それによってこれ以上出血が出づらくなっているのであれば、抜去処置は行わないこともあります。
ただ、今回の場合は、一部抜去してあげることで胃の圧迫や重さを軽くできることを期待し、腹水抜去を実施しました。
獣医師1人と愛玩動物看護師3人の全員体制で訪問できたこともあり、2人が保定、1人が酸素管理、1人が抜去の役割を担うことができました。
結果、1.3Lもの腹水を抜去するまでにとどめ、その性状はほぼ血液で間違いありませんでした。
緩和を目的とした抜去後、はるちゃんは立ち上がることができ、いつものお皿のところで身を飲む姿を見せてくれました。
3日後に診察を組み、この日の往診は終了としました。
この日から安定した時間が続き、ご飯もしっかりと食べてくれたとの事でした。
3月6日の朝までは元気さを取り戻しつつある姿を見せてくれていましたが、お父さんが帰宅される夕方にはガクッと下がっていたとの事でした。
そして翌日、の2024年3月7日の朝、家族が見守る中、静かに眠りにつきました。
たまたまお父さんがお休みで、一緒にいられる時間を選んだのかもしれません。
まとめ
大型犬を迎える以上、大型犬には腫瘍が多いこと、そして立ち上がれなくなった時には力が必要になることを想定していなければいけません。
もし人手がなく、立ち上がれなくなった場合にどうしようもできないと、今のうちから予想される場合には、早い段階で往診専門動物病院、または往診可能な動物病院で、一度診察を受けておくことをお勧めします。
この子たちの時間の最後が、当たり前の日常の中で過ごせるよう、ペットの在宅医療、在宅緩和ケアが広く普及されて行くことを願っています。
東京、千葉、埼玉、神奈川にお住まいの場合には、私たち、往診専門動物病院わんにゃん保健室がご自宅まで訪問させていただきます。
最後の時間を少しでも快適に過ごさせてあげられるように、一緒に頑張りましょう。
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