家でペットを看取るということは、決して楽なことではないです。
刻一刻と変化するペットの症状を把握し、どう解釈し、何をすべきなのか。
日中ならまだしも、この変化は24時間起こります。
もし発作が始まったらどうしよう。
急に呼吸が苦しそうになったらどうしよう。
吐いてしまったら、吐血してしまったら、下血してしまったら。
そんな不安を抱えながら、1分1秒を共に過ごさなければいけません。
もしそれが日中で、かかりつけの動物病院が診療時間内であれば、電話して相談するkとができるでしょう。
ただ、この変化は24時間起こります。
そうなった時、あなたは何ができますか?
そうなる前に、あなたは何を準備しておきたいですか?
今回お話しする猫ちゃんは、念入りな事前準備を行い、酸素環境をバッチリ整え、在宅終末期ケア(ターミナルケア)を走り抜きました。
今回と次回の2つで、そのターミナルケアを事細かに描かせていただきます。
2023年7月9日に当院と出会い、約3ヶ月間にわたる終末期ケアの末、2023年10月3日、家族が見守る中、静かに眠りにつきました。
【2日目(ペット在宅終末期ケア)】
診療の時に皮下点滴を実施したところ、その後は雰囲気的に楽そうにしていたとのことでした。抗不安薬を少し使用してあげることにしたのが、功を奏したのかもしれませんね。
少し軟便気味になったこともあり、お薬の種類を変更させてもらい、各種頓服を準備していきました。
内服が難しい犬猫、特に猫ちゃんでは、終末期ケア(ターミナルケア)のステージで内服で頑張るという選択肢はないと思ったほうがいいです。
この場合、内服ができないからと諦めるのではなく、在宅での皮下点滴をできるようになることが求められます。
点滴と言っても何十分も時間がかかるようなものではなく、おおよそ5分未満、早ければものの数秒ほどということもあります。
脱水補正を目的に皮下点滴をする場合はある程度の時間がかかりますが、投薬だけを目的とした場合には、ほんの数秒〜30秒以内くらいですので、是非挑戦してあげてください。
お母さんの日誌には、ももたろうちゃんのほぼほぼ24時間の動きが全て記載されていました。
その日誌の内容からも、ももたろうちゃんが頑張っている姿が手に取るようにわかりました。
そして何より、お母さんが最後まで体力も精神力も保てるのかが心配になるほどでしたが、お母さんは最後までやり抜きました。
続きます。
【5日目(ペット在宅終末期ケア)】
嘔吐が見られたこともあり、嘔吐を止める薬の量を増やすことで調整しました。
嘔吐を止める薬は、大きく分けて気持ち悪さを緩和させるものと、吐くこと自体を抑制するものに分かれます。
状況次第ではありますが、どちらか一方だけでなく、併用することで相乗効果を図ることが、犬猫の在宅終末期ケア(ターミナルケア)では多々あります。
下痢が止まったので、下痢止めは以後頓服薬として準備しておき、軟便傾向になった時に、次の皮下点滴のタイミングで一緒に使用してもらうようにお伝えさせていただきました。
また、ご飯も食べたそうにするするけど、口に入れるとひどい咳をしてしまう状況なため、食欲は尊重しつつも、無理に食欲を出させることはしない方針としました。
食欲を出させるために使用される医薬品は、錠剤タイプもあれば、軟膏タイプもあります。
軟膏タイプのものであれば、個人輸入することができるため、診察しないで飼い主様個人の判断で購入し、使用してしまっている事例を多く見受けます。
ただ、本当にそれをすべきかどうかは、ペットの状態で大きく違いが生じます。
無闇に使用することで、かえって苦しめてしまうことが十分起こり得ますので、個人輸入するとしても、必ず獣医師の判断を仰ぐようにしてください。
当院では、他院処方や個人輸入医薬品医対する説明は、あまりしないようにしています。
他院の場合、処方決定した獣医師がなぜそれをその用法用量で処方したのかがわからないため、無責任なことを言えないという背景があります。
また、個人輸入のものに関しては、その医薬品が正規品なのかの保証を誰もしてくれないので、求めたい投与量にズレが出てしまうことを懸念します。そのため、購入した場合には、全部自己責任になることをご理解ください。
当院の在宅終末期ケア(ターミナルケア)では、できる限りご家族様に寄り添った診療プランをご提案させていただきます。
上記の医薬品処方に関する注意事項はお伝えした上で、ただもしそれがこう言った用途であれば、これが正規品であれば、今のこの子に対してはこのように使用するのを推奨します、と言ったことはアドバイスさせていただいています。
最良の診療プランはご家族様ごとで異なるため、都度じっくりとヒヤリングさせていただきながら、方針を柔軟に決めています。
【9日目(ペット在宅終末期ケア)】
皮下点滴の時、いつもより痛そうにしていたとのことでした。
もしかすると、やや便に血が混じるというお話があったことから、止血剤を処方していました。
これは経験的な話ですが、色のついた医薬品はしみる傾向にあると思います。
また、pHが高いものはしみるようです。
とはいえ、必要であればどうにか痛みを紛らわせるような手法を相談しながら頑張っていただくこともあれば、その反応にペットがひどく反応してしまう場合には、削除することもあります。
ペットによっては、特別反応せずに受け入れてくれる場合も多々あるため、その反応すら個性として考えることが、緩和ケア、特に終末期ケアでは必要となってきます。
問診の時に、事細かに全部お伺いさせてくださいね^^
全身状態から判断し、この日から止血剤をカットすることとしました。
また、初診から1週間ほど経過したので、再度血液検査と超音波検査を実施することとしました。
平常時から呼吸状態が悪い子に対し検査を入れる場合には、何よりも呼吸管理が重要です。
酸素コントロールには、当院では酸素ボンベを常備しておりますので、ボンベを解放することで酸素濃度をあげて呼吸悪化を防いでいます。
なお、ここで重要なもう一つのことが、保定です。
保定って簡単に見えるかもしれませんが、かなり高度な技術であることを知ってください。
保定の仕方一つで、その場で呼吸を止めてしまうこともあれば、医療事故を引き起こしてしまうこともあります。
よくご家族様に保定をお願いする獣医師がいるかと思いますが、状態が悪い時のペットの保定をお願いされた場合には、かなり慎重に対応することを忘れないでください。
「どこをどのくらいの力で抑えればいいのか」
「どこは押さえちゃいけないのか」
この2つだけは明確にしておきましょう。
なぜここで保定を取り上げたかというと、ももたろうちゃんは保定されるのが大嫌いで、その都度容易にチアノーゼを発症してしまうんです。
そのため、保定には常時2人を揃え、酸素ボンベの管理はお母さんにお願いすることも想定しておかなければいけませんでした。
この日は愛玩動物看護師が2人、動物看護スタッフが1人を揃えて往診に向かったので、全ての検査を安心して実施することができました。
在宅医療を求める状況にあるペットの多くが、すでに終末期ケア(ターミナルケア)のステージにいることが多いです。
往診専門動物病院のほとんどが、残念なことに獣医師一人で運営されていることがほとんどなため、必ず保定してくれる看護スタッフの動向が可能かを聞いてください。
もしかすると、知り合いの動物病院から看護スタッフを派遣してもらえるかもしれないので、諦める前に、同行してもらうことが可能かどうかを相談することをお勧めします。
検査の時は、状態や性格に応じてネッカー(カラー)を装着するのですが、ももたろうちゃんの首の状態(下顎リンパ節腫瘍)もあり、首のところは広がりが持てるように遊びを持たせた作りがベストだと話し、次回再度調整することとしました。
【15日目(ペット在宅終末期ケア)】
今日はネッカー(エリザベスカラー)の再調整を予定していたのですが、なんとお母さんがももたろうちゃん専用のカラーを作ってくれました!
すごいですね!愛のパワーですね^^
設計はバッチリなので、あとは装着するだけ...なのに...
前肢を器用に使って、カラーを外してしまいました。。。
この仕様でもダメならもう仕方ないので、カラーなしで検査に臨むことで検査指針立てていきました。
長くなりすぎたので、続きは次回です^^
猫ちゃんの終末期ケアは、投薬とご飯選びの勝負です。
1つがダメでも次の手を考えておくことが大切です。
これって決めてずっとそのまま進んでくれるなんてことはあり得ません。
状態に応じ、都度相談しながら一緒にプランを考えていきましょう。
次回は状態低下に伴う処方プラン変更のお話です^^
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