最後の時間を、皆さんはどのように過ごさせてあげたいですか?
もし在宅での緩和ケア、在宅での終末期ケアを希望されるのであれば、早めに往診専門動物病院を探しておきましょう。
今回ご紹介するのは、通院から往診に切り替え、しかしその往診が動物病院のオプションだったことから、在宅医療に特化した当院に転院された、頸部腫瘍を抱える猫のももたろうちゃんのお話です。
2023年7月9日に当院と出会い、約3ヶ月間にわたる終末期ケアの末、2023年10月3日、家族が見守る中、静かに眠りにつきました。
【初診時の問診】
もともとは通院が苦手であり、往診専門動物病院で診てもらっていたが、その獣医師の方で施設を有する通常の動物病院を開設してしまったため、今までみたいに往診がしづらくなってしまったとのことでした。
そこで、終末期を迎えるにあたり、在宅での終末期ケアを得意とする往診専門動物病院を再度探され、当院を見つけてくれました。
既往歴には、膵炎、腎臓病、医原性糖尿病、頸部腫瘍がありました。
2022年12月頃に左下顎のあたりに小さなしこりを見つけ、それが半年くらいで大きくなってきたとのことでした。
当時にかかりつけ獣医師の話だと、今から手術をするには、ももたろうちゃん腎機能から考えると麻酔のリスクが高いことと、大きな範囲を切除するため大手術になることを示唆されたとのことでした。
動物病院を開設されてからの先生は少し変わってしまったところもあり、言葉の節々にあしらうような雰囲気が醸し出されおり、それによってご家族様が傷ついてしまったとのことでした。
ご家族様には先代猫で経験した辛い記憶がありました。
悪性腫瘍で入院させて治療を受けさせた結果、退院後1週間ほどで亡くなってしまったとのことでした。
お見舞いに行く度に、ケージの中で辛そうにご家族様を見つめていたとのこと。
最後の朝はしゃっくりして、痙攣を起こして旅立ったとのことでした。
最後どうなるのか、夜間はどうしたらいいのかなどを相談して見たところ「自分で探せば?」と言われ、内服薬が飲めなかったことを伝えると「じゃー飲ませないでいい」、って突き放されました。
獣医師の多くが、治療に関しては知識が豊富でも、終末期に悩むご家族様に寄り添った提案をし続けてくれるのは、ごく少数であると感じています。
「治療ができないなら家で看取ってください」ではなく、それ以外にもまだこんな方法もあるよって提案し続け、ご家族様の心の変化に柔軟に対応しながら最後まで寄り添っていくのが終末期ケアです。
かかりつけ獣医師も意識せずに放ってしまった言葉だと思いますが、きっと動物病院での入院管理に手術、基本夜間の往診となれば、精神的に滅入ってしまって当然だと思います。
ペットの全ての悩みに応えたい一心で突き進まれた末、結果としてその皺寄せがどこかに出てしまうという場面だったのだと思いました。
往診専門動物病院は、本来は簡易的な処置や、動物病院の休診に伴うスポット的な役割を担うのではなく、在宅医療の訪問医療に特化すべきです。今よりももっと、慢性疾患の緩和ケアや、余命を見据えた終末期ケアこそ、ペットを飼っているご家族様が求める最大の診療分野であると考えています。
多くの往診専門動物病院が自身のライフワークバランスを考えた運営を行なっています。
ライフワークバランス考えた往診専門動物病院ではなく、ちゃんとご家族様に寄り添える体制の整った往診専門動物病院が増えてくれることを切に願います。
ももたろうちゃんは、手術を希望しませんでした。
ペットの在宅終末期ケアでは、通常の問診だけでなく、もっとパーソナルなこと、生活環境を把握するために十分な情報など、多岐にわたって把握しなければいけません。
「内服が苦手なこと」
「洋服やサポーターを身につけるのが嫌いなこと」
「いつも奥の部屋とトイレのあたりを行き来しながら生活していること」
「お父さんが晩酌の時に缶を開ける音でリビングに来ておつまみをねだること」
「お母さんがほぼ24時間体制で見ていてくれること」
まだまだあります。
ももたろうちゃんがどうやってこの家族と出会い、どんな生活をしてきたのか。
家族として何をどこまでしてあげたいのか。
現実問題として、何ができるのか。
獣医学として絶対に正しいと言えなくとも、大きく間違っていなければ、ご家族様の気持ちを形にしてあげたいと考えています。
もしそれで、ご家族様の心が落ち着くのであれば、結果として、その先にいるペットの心も落ち着くであろうと信じています。
在宅での皮下点滴方法も確認したところ、複雑な手法を指示されていましたので、全て変更させていただきました。
獣医師によって、皮下点滴一つとっても、その方法が異なる場合があります。
何度もシリンジ(注射器)を交換しながら、ご家族様だけで皮下点滴をしてもらうには、少し煩雑すぎるかなと感じています。
付け替えの度に漏れてしまったり、気泡が入ってしまったり、その刺激でペットが動いてしまったりなど、在宅での皮下点滴の運用方法としてはやさしくないです。
獣医師であればその運用は簡単ですが、ご家族様にとってはそうではないことを理解して処方しなければいけないと思っています。
全体的なお話を伺い、いよいよももたろうちゃんの今の状態について診ていきました。
このように、初診時にはペットの状態だけでなく、ご家族様の悩みがどこにあるのか、生活環境的にどこまで対応できそうかなどを想像しながら、さまざまなお話を伺っていきます。
その中で、ここはこんなことができるかも、ここはどうしようもない、などを少しずつ明確にしながら、終末期をご家族様と一緒に歩んでいきます。
ペットの在宅終末期ケアという考え方は、ペットと暮らすご家族様にとって必要となる可能性が高いです。
最後まで入院治療ではなく、家の中で余生をすごさせてあげたいとお考えのご家族様は、ペットがぐったりする前に在宅医療プランを一緒に作っていきましょう。
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