前回のブログでは、重度の黄疸を抱えた日本猫のはなちゃんに、甲状腺機能亢進症が見つかり、その治療を行うことで肝数値の改善と黄疸の消失までを認めることができたところまでを書かせていただきました。
状態も改善し、元気さを取り戻していた最中、今度は腎数値が徐々に上がってきて、その後急激に腎数値が改善したと思えば、同時にまた肝数値が一気に上がり、黄疸も進み、拡張した胃と十二指腸を確認しました。
そして、2024年3月11日、お母さんの見守る中、眠るように旅立ちました。
元気な姿をまた見られてからの状態悪化。
緩和ケアの現場では、1日1日の変化が大きく、また日内変動を見ても、とても大きいことが多々あります。
はなちゃんの最後の日までを描かせていただきます。
はなちゃんのご冥福を心から祈ります。
再診(診察8日目)
この日のはなちゃんは、前回よりも元気さが戻っており、キャットタワーやダイニングテーブルにも飛び乗れるようになっていたとのことでした。
食欲も旺盛であり、排便もやや軟便ではありましたが、ちゃんと出ていました。
おしっこの色も、黄色みが強かった(黄疸色)頃と比べ、だいぶ元の色に戻ってきているとのことでした。
前回の診察時、体重が急激に増加と、検査時に下側の前肢に浮腫あることを確認しました。
調子よく進んでいたものの、全身的にも浮腫があると判断されました。
追加した利尿剤の効果もあり、今日まで尿量は多かったとのことでしたが、お水もちゃんと飲めており、前回認めた浮腫も取れていることを確認しました。
在宅緩和ケアで実施している1日2回の皮下点滴の中に、利尿効果のある医薬品を使用することで、浮腫の改善を図ることに成功しました。
この浮腫改善対策が功を奏し、四肢のむくみもなく、また体重も通常の幅での増加となっており、体がちゃんと栄養吸収できていると判断しました。
ちなみに、初診時が2.1kg、4日後に2.6kgと急激な増加を認めなり、利尿効果を追加したこの日は2.4kgでした。
超音波エコー検査所見は、特別な変化なく、経過良好でした。
再診(診察12日目)
この日も大きな変化ななく、元気食欲も安定したはなちゃんに会えました。
前回行った血液検査では、肝数値は徐々に改善してきていましたが、腎数値が徐々に上がってきたことを認めました。
甲状腺機能亢進症がある場合には、甲状腺機能亢進症の薬を飲むことで、甲状腺ホルモンの生成を抑制します。
甲状腺ホルモンが高すぎたことで、異常な代謝が起こり、心臓への負荷、肝臓やその他臓器への負荷が上がることがネガティブ側面ですが、高齢の猫ちゃん、特に10歳以上の猫ちゃんでは、この病気によって活力をサポートしてもらっている、という雰囲気をよく見受けます。
そして、甲状腺機能亢進症が隠れている場合には、腎数値がそこまで悪くなく見えてしまうという現象を起こします。
今回、甲状腺機能亢進症のコントロールを始めていたこともあり、最初から腎臓の数値が上がってくることを想定し、内服薬や皮下点滴などによって、先に対策は打ててはいました。
ここで認めた腎数値の上昇は、かなり高かったものの、状態も安定していることから、大きく1回の皮下点滴量を増やすことなく、現状維持としました。
また、利尿剤は、腎臓病を悪化させる可能性があります。
ただ、はなちゃんのように、全身の浮腫を疑う症例では、すぐにカットすることは危険であると判断し、この日から半量まで下げることで、浮腫の再発が起こるかの様子を見つつも、腎数値悪化に対しての対策としました。
なお、腎臓のサプリとして2種類処方しました。
詳しくは書きませんが、1つはBUNを下げることが目的であり、もう2つはリンを下げることが目的です。
食べられるうちは頑張ってもらい、無理に飲ませないでいいので、ということで処方しています。
早期であれば、療法食だけでもコントロールが効きますが、緩和ケアの時は食欲の維持が何よりも大切なところだったりしますので、できれば療法食、でも無理は絶対にしないで、好きなもので食欲を刺激してあげます。
超音波検査所見は、特別な変化なく、経過良好でした。
再診(診察19日目)
この日のはなちゃんは、さらに元気さが増しており、高い棚の方までジャンプして登れていたとのことでした。
食欲も旺盛で、排便、排尿も問題ないとのことでした。
サプリメントも頑張って飲んでくれたこともあり、腎数値がやや改善してくれたことを受け、このまま安定してくれることを期待していました。
肝数値、黄疸数値ともに改善傾向でした。
この日から、利尿剤は頓服とし、常用から外すこととしました。
はなちゃんの場合、頓服使用としての利尿剤は、①浮腫を認めたとき、②急げきな体増加を認めた時、の2つの事象としました。
また、ステロイドの種類も変更し、カットできるようになることを目指して漸減していくこととしました。
超音波検査所見でも特別な変化なく、経過良好でした。
しかし、体調の変化が訪れたのは、この診察から4日後の2024年2月28日でした。
ここまでのまとめ
医薬品は選び方や使い方で期待される効果に大きな変化を起こします。
人であれば飲んでくださいと言えば、理性のある方であれば、飲んでくれるものです。
しかし、犬猫は違います。
特に猫ちゃんでは、内服薬のほとんどを受け付けてくれないものです。
少量であればおやつなどに混ぜて飲ませられるかもしれませんが、緩和ケア、特に終末期を見据えた時には、体から発せられる強いサインを押さえ込むのに、複数の医薬品を使わなければいけません。
体調の変化に合わせて、医薬品の種類や剤形などを選択するために、その時体調が安定していなければ、診察の間隔は短いものとなります。
また、ペットのことだけでなく、その横で必死に看病してくれるご家族様のメンタル面を支えなければいけません。
それが、私たちが目指す在宅緩和ケアです。
次回のブログで、診察24日目から最後の日までです。
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