猫ちゃんの多くは動物病院への通院が難しく、その中でも頑張って通院されるご家族様はたくさんいます。
ただ、もう治らない病気を抱えたり、体力的にキツくなった時には、在宅医療に切り替えてあげることも一つの手段です。
犬猫の在宅医療は発展途上であるのは確かであり、今後普及してくれるかどうかは、まだまだ不確かな状況です。
それでもかかりつけの動物病院に往診してくれるかどうかを確認し、難しいようであれば往診ができる動物病院を早々に探しておくことをお勧めします。
今回は、重度の黄疸を抱えた猫のはなちゃんの3回目です。
初診でぐったりしており、検査にて甲状腺機能亢進症が見つかり、その治療を実施したところ元気さを取り戻してきたことで、もしかしたらこのまま回復してくれるかもしれないと期待した矢先、状態が暗転しました。
2024年3月11日、お母さんの見守る中、眠るように旅立ちました。
はなちゃんの診療日誌、最終章を始めます。
再診(診察24日目)
前日から調子が悪かったこともあり、夜中にご連絡をいただきました。
折り返しができたのはこの日の朝で、調子が悪く、吐いてしまったというものでした。
日中はお仕事があるため、夕方のお時間で調整したところ、夜間の時間で予約をお受けすることができました。
その日の夜に往診で訪問すると、少し元気のないはなちゃんがいました。
お話をお伺いすると、前日からなんとなく体調の変化に気づいていたが、運動量としてはそこまで変わっていなかったとのことでした。
しかし、今朝になるとじっとして動かなくなり、朝2:00に少量のドライフードを多部田ことを最後に、食べたそうになくが食べられないという状況だったとのことでした。
排便も前日が最後で、尿量も減り、また濃い黄色のおしっこになったとのことでした。
飲水量も減っているということもあったので、利尿剤をカットしたこともあり、もしかすると尿量が減った原因は単純に利尿剤をカットしたからと考えたかったですが、黄疸尿を見たことがあるお母さんからのお話でしたので、また黄疸が始まったことを瞬時に悟りました。
また、制吐剤が入っているにもかかわらず、嘔吐を認めました。
超音波検査にて胃から十二指腸にかけて、内容物の鬱滞を確認し、腸管の動きが悪くなってきたことを考え、一部制吐関連の医薬品を変更し、腸管の動きが良くなることを期待しました。
同時にステロイドの用量を増やし、下がってしまった状態が、また安定を取り戻してくれるように祈りました。
翌日の朝までに1口も食べなかった場合には、翌日の夜間にお伺いすることとしたのですが、翌朝少しだけ食べてくれたことを認めたため、少し様子見としました。
再診(診察26日目)
前回の結果で、腎数値が大幅下がって参考基準値内に入っていました。
そして、肝数値が一気に上昇し、黄疸が出始めました。
超音波検査にて胃から十二指腸にかけての鬱滞に、変化はありませんでした。
ここまで急激に腎数値が改善するのは珍しいことであり、違和感を覚えました。
当初考えていた、甲状腺機能亢進症によって肝負荷が上がり肝障害を発症し、黄疸発症を起こした。また、慢性腎臓病はマスクされた状態だったこともあり、甲状腺機能亢進症のコントロールによって、慢性腎臓病が表に見えるようになった、というストーリーは否定的であると考えました。
血栓によって肝臓が障害され黄疸が発症し、次に腎臓が障害されて腎数値が一気に上がってきた、というストーリー変更が起こりました。
他の血液検査結果を踏まえ、腫瘍が隠れていることを考えました。
甲状腺機能亢進症は、別途発症していたにすぎなかったと結論づけました。
過去症例からの経験則から、肥満細胞腫とリンパ腫が挙げられますが、その両方ともに得られるはずの画像所見は認めませんでした。
ただ、精査が叶わないのが在宅医療であり、もう麻酔をかけた精査を求めないのが、ペットの終末期です。
状態が下がっていることから、無理に内服させなくてもいいサプリは休薬とし、ステロイドを増やして、回復してくれることを祈りました。
再診(診察29日目)
肝数値がさらに悪化していること、黄疸もさらに強くなっていることが発覚しました。
昨日から元気がなく、ご飯の催促も昨日少しだけであり、今日は全くないとのことでした。
前日の排便が最後で、少量のだけで出ていました。
2日前に嘔吐があり、エコーに写っていた胃の内容物が出てきたのだと思われました。
その分だけ胃に空間ができ、ご飯を食べられていたのだと考えました。
消化管の通過障害を伴う疾患はたくさんあります。
病気にもよりますが、完全閉塞を伴った場合でもう治る見込みがない場合、ご飯に対する考え方は異なります。
おそらく、多くの獣医師の意見は、食べても吐くだけであり、吐くのは辛いから、もう食べさせないであげましょう、というものです。
食べても吐くだけだとは思います。
それでも、食べたいという本人の意思を尊重してあげたいです。
在宅緩和ケアでは、動物たちがどうしたいのかに委ねるように伝えています。
強制給餌はしないほうがいいです。
ただ、食べたいのであれば、食べさせてあげてください。そのように伝えています。
はなちゃんも例外ではなく、食べられそうであれば食べさせてあげてくださいとし、この日の診察を終了しました。
再診(診察32日目)
2024年3月9日の土曜日の11時に訪問して、はなちゃんの様子を診させていただいました。
そこにいたのは、ぐったりしたはなちゃんでした。
こたつの中にいつも隠れているのに、この日はこたつから頭だけ出して、僕らの訪問を待っていてくれました。
もう何も食べなくなり、血圧も下がっていることを認め、検査をやめることとしました。
平日は朝から夜までお仕事のお母さんでしたが、翌週の月曜日はたまたまお休みが取れていたとのこともあり、今日から3日間は一緒にいられるとことでした。
次回の診察はその翌日の火曜とし、診察を終了しました。
2024年3月11日(月)の早朝
お母さんが見守る中、はなちゃんは眠りにつきました。
本当であればお仕事に向かわれてしまうはずだった月曜日。
きっとはなちゃんがこの日を選んで、お母さんがお休みを取れるように仕向けてくれたのかもしれません。
犬猫と暮らすご家族様へ
どんな命でも、いつかはお別れを迎えます。
そして、そこには旅立つ命以外に、置いて行かれた存在ができます。
食い止めることは不可能であることから、最後にどこまで、その子と向き合えたのかが大切だと思っています。
最後はどこで、どんな風に看取ってあげたいのか。
考えるのはいつからでもいいですが、早いに越したことはありません。
いつまで通院させるのか。
いつまで治療をするのか。
いつまで薬を飲ませるのか。
いつまでご飯を食べさせるのか。
誰がどこまで看病にあたれるのか。
いつも診察の時に、お母さんの目を見ています。
きっとみんな寝てないんだろうなという目をしていて、大丈夫ですか?、という問いかけに、みんな、大丈夫です。と言います。
簡単な最後なんてありません。
通院が難しくなることを想定し、近くにある往診可能な動物病院、または往診専門動物病院で、早めに一度診察を受けておくことをお勧めします。
通院から在宅に切り替えるタイミング、それは余生を楽に過ごさせてあげたいと考えた時からなのかもしれません。
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