往診専門動物病院わんにゃん保健室 往診獣医師の江本宏平です。
2020年を迎え、愛犬・愛猫の調子はいかがでしょうか?
年末年始の間は、かかりつけの動物病院がお休みであったり、ご家族様が多忙であったりと、なかなかペットに目を向けてあげられなかったご家族様も多くいるかと思います。
年明けから、ペット往診のご予約が東京中央区、特に東京中央区勝どき、東京中央区晴海、東京中央区月島、東京中央区築地からの問い合わせがなぜか殺到しています。高齢犬・高齢猫は急に体調が下がることが多く、その瞬間風速はかなりなもので、昨日までは普通だったのにということも少なくありません。心臓や腎臓などの持病を抱えている犬猫と暮らしているご家族様は、定期的にかかりつけの動物病院に通院し、担当獣医師からペットの日常ケアや気をつけなければいけない症状についてなどの説明とその時にどうすればいいのかなどの指示を仰ぐようにしましょう。
さて今回は、東京中央区勝どきにお住いの甲状腺機能亢進症の猫ちゃん(ウニちゃん)についてです。3日前までは普通に食べていたのに、突然元気食欲が無くなってしまいました。
突然の食欲無し(18歳猫/シニア猫/東京中央区在住)
ウニちゃんは18年間ほとんど体調を崩したことがなく、5年前に一度だけ食べているのに痩せてきたということで、動物病院に連れて行ったそうなのですが、その際にすごく暴れてしまい麻酔をかけて入院検査を行ったとのことで、もう連れていくのは大変なのでお家で何とかしてほしい、とのことでご連絡を頂きました。
お家にお伺いさせて頂くと、ウニちゃんはかまくらの中で丸くなっていたので、まずは挨拶だけしてお話をお伺いさせて頂きました。3日前ぐらいから急に元気食欲が無くなったとのことで、それまではすごく元気に過ごしていたそうです。5年前に動物病院に行ったときは、甲状腺の疾患が疑われたそうなのですが、特に検査で異常がなく治療せずに過ごしていたところ気付けば体型も安定してきたので、動物病院に連れて行くのが大変な性格であったこともあり、一旦様子見としたとのことでした。その後は特に何もなく元気に過ごしていたそうなのですが、3日前ぐらいから急にご飯を食べなくなってかまくらから出てこなくなってしまったそうです。
身体検査では激しい脱水が認められ、体型も削痩していました。また、わずかに皮膚が黄色くなっていて、黄疸の所見も認められました。食べても太らない、という経歴があったので甲状腺の疾患も疑われましたが、まずは血液検査で全身状態を見て、治療方針を決めていく必要があるので、血液検査をご提案させて頂きました。ペット往診では、ご自宅で動物看護師がタオルなどで愛猫・愛犬を覆うようにして確保し、安心して採血を行うことが出来ます。状況に応じて、チュールやおやつなどをあげながら行うこともありますので、その場合には飼い主様にあやしてもらっています。
通常のちょっとした下痢や嘔吐、若齢の犬猫での体調不良であれば内服薬でまず様子を見てみる、ということもありますが、今回のウニちゃんのように高齢で激しい脱水が認められる場合には内服薬で、というわけにはいかず、まず何が原因で体調が落ちてしまっているのかを見る必要があります。
ウニちゃんには少し頑張ってもらい、採血を行って、この日は脱水があって食欲も落ちてしまっていたことから、吐き気止めや胃薬が入っている皮下点滴も行いました。
往診専門動物病院わんにゃん保健室では、獣医師と動物看護師が一緒にご自宅まで訪問し、動物看護師による保定のもと、往診獣医師が検査・治療を行います。そのため、飼い主様の負担は特別なく、検査・処置が終了するまでの間は近く、または別の部屋で待機してもらえます。
治療後ウニちゃんをかまくらに戻してあげると、再び丸まっていましたが、しっぽがかなり膨らんでいたのでおそらく少し不機嫌なようでしたが、すぐに隠れることができたので落ち着いていました。
この日はそれで診察終了としましたが、全く食べられておらず脱水も進んでいたのでまずは皮下点滴が数日間必要になるだろうということで、予定を組ませて頂きました。
血液検査の結果は心臓、肝臓、腎臓、甲状腺、炎症反応、すべての数値が上昇しており、甲状腺機能亢進症、慢性腎臓病の急性悪化が疑われました。炎症反応の数値は、甲状腺機能亢進症や慢性腎臓病でも数値の上昇が認められることがあるため、肝臓などで炎症が起こっているのか、あるいは慢性疾患によって上昇しているのかはこの時点で判断はつきませんでしたが、まずは脱水を補正して食欲の回復を期待し、甲状腺の疾患も内服が可能になれば行っていくこととなりました。
ここで、甲状腺機能亢進症について少し触れていこうと思います。
そもそも甲状腺って何をしている臓器なの?という方も多いかと思います。
甲状腺とは、身体の代謝をつかさどっている臓器で、脳からの刺激を受けて、甲状腺からホルモンが出されます。それが甲状腺ホルモンです。甲状腺ホルモンは血液にのって体のいろいろなところに作用して、活動を行わせる役割をしています。
甲状腺ホルモンが十分に出ると、今度は、もう甲状腺ホルモンは出さなくて良い、という指令が脳に行って、脳からの刺激がストップします。このようにして、体内の甲状腺ホルモンの濃度は調節されているのですが、甲状腺機能亢進症では甲状腺が過形成などで大きくなってしまい、脳からの刺激が無くとも、甲状腺ホルモンが出続けてしまう疾患です。そして甲状腺ホルモンは代謝を調節しているので、甲状腺ホルモンが増えると代謝がすごく上がってしまいます。
一見、代謝が上がるのだから良いのでは?と思う方もいらっしゃるかと思いますが、身体にとってはとても負担がかかります。
心臓では、心拍数が上がり、血圧も上がるので、かなりの負荷がかかります。また、消化管の動きも活発になるので、嘔吐や下痢が出ることもあります。そして嘔吐が出てくると気持ち悪くて食べなくなってしまう場合があったり、逆に嘔吐がない猫ちゃんでは、代謝が上がって食欲がすごく出てくる猫ちゃんもいます。もちろん活動性も上がるので、本当に一見元気に見えてしまうのですが、実は体の中では、すべての臓器が頑張りすぎている、という状態です。
また、血流が上がるので、腎臓にとっては有益で、どんどん血液がくるので、おしっこをどんどん作って老廃物を排出していきます。そのため、多尿になっていきます。
ではどうやって治療するのでしょうか?
治療法は、甲状腺ホルモンを減らす内服薬を飲ませることで治療していきます。
そうすると、代謝が元の状態に戻るので、全身の負担を減らすことができますが、腎臓にとっては血流が減ってしまうので、今まで隠されていた腎臓病が出てきてしまうことがあります。なので、甲状腺を治療する際は腎臓の数値にも必ず気を付けなければなりません。
このように甲状腺疾患は、ご家族からすると良い兆候に見えてしまうのですが、高齢でいつも寝ていた猫ちゃんが、よく動くようになったり、よく食べるようになったときは注意が必要です。
ウニちゃんも例外ではなく、甲状腺によって、おそらくそれまで元気に見えていたのだと考えられました。しかし、腎臓病によって脱水が進み、体調が悪くなって食べなくなり、それによってさらに脱水が進んで、腎臓病がより悪化してしまった可能性が高いです。
ウニちゃんは点滴を1週間続けてようやく少し食べれるようにはなってきたので、これから甲状腺の内服をご家族様に頑張ってもらう予定をしています。
ウニちゃんのように急に体調が悪くなったように見えても、実は慢性疾患を抱えていて、症状が急に現れるということも珍しくありません。
特に猫ちゃんの場合、本能的に体調不良を隠してしまうことも多いので、少しでも様子の変化があれば、早めに往診専門動物病院わんにゃん保健室までご連絡下さい。
往診専門動物病院わんにゃん保健室では、動物病院が苦手な猫ちゃんでもお家で診察させて頂きますので、処置が終わればすぐにお家の隠れる場所に戻ることが出来ます。
動物病院にずっと行けていない、という方でもお気軽にお電話ください。
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