こんにちは!往診専門動物病院わんにゃん保健室 往診獣医師の江本です!
東京千代田区では、皇居乾通りが一般開放され、紅葉を楽しめる時期がやってきましたね!
12月は何かと忙しない時期であり、人もペットもなぜか体調を崩しやすい時期です。
どうぞ体調には十分に気をつけてください。
最近寒くなってきて、人でも風邪が流行る季節になってきましたが、鼻がぐずぐずしている猫ちゃんも注意が必要です。
皆様聞かれたことがあるかもしれませんが、その鼻のぐずぐずやズビズビは、もしかすると猫風邪かもしれません。猫風邪であれば、鼻のぐずぐずだけでなく、くしゃみ、鼻水、結膜炎、目やになど他の症状を伴うこともよくあります。ただ、鼻がぐずぐずするのは、猫風邪だけではありません。お家の猫ちゃんをよく見てあげて、他の症状が併発しているかどうかみてあげましょう。
今回は、猫風邪ではなく、別の原因で鼻がぐずぐずしてしまった猫ちゃんのお話です。
ご紹介するのは東京都千代田区在住のあいちゃん、15歳の雌、高齢猫ちゃんです。
高齢猫/東京千代田区/食欲がない/鼻がズビズビする
高齢猫のあいちゃんに初めて会ったのはちょうど1年ほど前でした。くしゃみと鼻水が出ているということでお電話で往診のご予約を頂き、ご自宅まで獣医師と動物看護師がご訪問させて頂きました。あいちゃんはすごく神経質なタイプの猫ちゃんで、私たちがお部屋に入るだけでも威嚇してシャーシャー鳴いていました。活動性も食欲もあり、くしゃみと鼻水が出るだけとのことでしたので、猫風邪と判断し、抗生剤と抗炎症剤を注射してその日の診察は終了となりました。あいちゃんはとても神経質な性格のため、動物看護師による保定でも、興奮によって開口呼吸になってしまうといったことがあったため、その日の処置は出来るだけ時間をかけないように行っていきました。
その後症状は治まって元気に過ごしてくれていましたが、2019年8月に、鼻が詰まっていて食欲が落ちているとのことで再びお電話を頂き、ご訪問させて頂きました。今回も猫のあいちゃんは私たちを見るなり戦闘態勢に入っており、できるだけストレスがかからないように、あいちゃんがいる部屋とは別のお部屋に移動し、詳しくお話をお伺いしました。今回は鼻詰りではありますが、鼻水が出たり、くしゃみはしていないとのことでした。
以前、猫風邪の疑いがあったということもあるので、猫風邪を疑い、今回も抗生物質を注射し、まずは様子をみることとなりました。食欲に関しては、おそらく鼻詰りによる嗅覚の低下から来ていると考えられましたので、風邪の症状が改善すれば良化すると考えられました。
しかし、数日たっても猫のあいちゃんの鼻は良くならず、ぐずついたままで、食欲不振も改善が見られず、もう一度訪問し、往診をさせて頂きました。
食欲はないものの、今回も高齢猫のあいちゃんは怒っていたことから、いつものあいちゃんだと感じ安心しました。
身体検査を行ったところ、やはり鼻から音がするものの、目やにや結膜炎などの症状はなく、もしかすると猫風邪ではなく、もしかしたら次に考えなければいけない病気である、鼻の奥の腫瘍の可能性が浮上しました。鼻の奥の腫瘍はレントゲンやCTなどの画像検査とともに、病理検査を必要とし、さらに初期の段階では、病理検査でも診断が困難なこともあります。しかし、猫風邪ではない場合、より症状を緩和できる治療をご提案させて頂くためにも、飼い主様にご説明し、二次診療施設での精査をお話したところ、ご同意頂けたため、二次診療施設へ行って頂くこととなりました。ただ、高齢猫のあいちゃんはとても繊細で神経質なため、ご家族様が無理に抱っこすると怒ってしまい双方にとって危険なため、おそらく飼い主様ではキャリーに入れることも困難と判断し、緩和ケアの一環とし往診専門動物病院わんにゃん保健室の動物看護師が診療の当日の朝にお家にお伺いし、あいちゃんをキャリーに入れるという流れをとりました。
このように、怒ってしまい、キャリーに入れることが出来ないけれど、二次診療施設での精査が必要と判断した場合は、往診獣医療スタッフにてキャリーに入れさせていただくことも可能です。
猫のあいちゃんは当日、往診専門動物病院わんにゃん保健室のスタッフによってキャリーに入れ、二次診療施設で検査を頑張ってもらいました。その結果、鼻腔内リンパ腫という確定診断が出て、しっかりと診断が出たことは良かったものの、腫瘍という厳しい結果が現実となってしまい、飼い主様もすぐには受け入れがたいものでした。
ここで、猫のリンパ腫について少しご説明させて頂きます。
猫のリンパ腫
そもそもリンパ腫とは、身体の中のリンパ球という白血球の一種が腫瘍化してしまったもので、白血病と似ていますが異なります。白血病は、血液のガンで、骨髄が起源ですが、リンパ腫はリンパ球が分布しているところ、つまり身体の様々なところで発生します。例えば、消化管、縦郭(胸の中)、脾臓、腎臓、鼻腔内、皮膚などなど・・・。その中でも、猫ちゃんに多いのは消化管型が圧倒的ですが、次いで鼻腔内、縦郭型と続きます。
診断するには主に画像検査や細胞診、場合によっては組織生検が必要となってきます。
治療法は、積極的にいくのであれば、抗がん剤がとても効きやすいタイプの腫瘍なので、抗がん剤治療が第一選択となってきます。ただ、抗がん剤までは・・・、という方や、そもそも抗がん剤を行う体力がない子たちにはステロイドも効きやすい腫瘍なので、ステロイド投与を行います。しかし、ステロイド剤だけではやはり限界があり、リンパ腫の種類にもよりますが、早ければ1か月程度で耐性が出来てしまうため、その後は効きが徐々に落ちてきてしまいます。
抗がん剤というと、人間の抗がん剤をイメージされる方が多いかと思います。実際、ヒト用の抗がん剤を動物でも使用しますが、人間ほどの激しい副作用が出ることもありますが、激しい副作用は人に比べると少なくはあります。なぜなら、例えば白血病であれば、人医療では一度白血球をほとんどゼロにしてしまい、滅菌室に入って、骨髄移植等の治療を行っていきますが、動物では、骨髄移植を行うことはなく、また滅菌室での生活も現実的ではないため、白血球をゼロにするほど強く抗がん剤を使用することもないためです。もちろん、個体差があるので、嘔吐や下痢、その他の副作用がでることもありますが、程度の差もかなりあり、副作用の出方によっては、抗がん剤を休薬することもあります。
こういったことを踏まえて、今後の治療法を高齢猫であることを踏まえて、東京千代田区にお住いのあいちゃんのご家族様と相談した結果、治ることはないですが、ステロイド剤を投与して、緩和治療を行っていくということになりました。
あいちゃんはステロイドをご飯に混ぜてしまうとご飯を食べなくなってしまい、また、ご家族様ではお薬を口に入れようとするとかまれてしまうため、毎日ステロイドの注射をするために往診をさせて頂きました。
最初はステロイドが効いて食欲も出てきて鼻のぐずぐずもなくなってきましたが、2か月ほど経った頃には、効きが悪くなってきており、食欲も活動性も落ちてきました。
その後も食欲増進剤などで少し食べるようにはなってくれましたが、一時的なもので、その後1か月ほどでだんだん撫でさせてくれるほどに弱ってしまい、最期のご挨拶だったかのように、虹の橋を渡ってしまいました。
今回の高齢猫であるあいちゃんのように、ただの鼻づまりではなく、高齢であればそれが腫瘍によるものの可能性も十分にあります。
抗生剤を使用しても全く良くならない、という場合や鼻血が出る、といった場合には一度そのような腫瘍の可能性も考えなければなりません。
しかし、あいちゃんのように、精査に連れていきたいけれど連れていけない、治療を続けたいけど薬を飲めない、などお悩みの方は、一度往診専門動物病院わんにゃん保健室までご相談下さい。一緒に続けていける方法を考えていきましょう。
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