こんにちは!
往診専門動物病院わんにゃん保健室の往診専門獣医師の江本宏平です。
往診専門動物病院とは、動物病院の施設をもたずに、医療機器や医薬品などをカバンに詰め込み、犬猫が待っているご自宅まで訪問し、犬猫が安心できる環境である家の中で獣医療を行います。基本的には、獣医師と動物看護師でご自宅まで訪問し、細かい問診を行い、必要な検査及び想定される処置内容及び今後の方針を相談していきます。
往診専門動物病院では、基本的に犬猫が抱えている病気に対して確定診断を下すことはせず、おおよその診断を下して治療に入っていきます。
検査内容も麻酔をかけた大きな検査や、X線検査などの大型医療機器を用いた検査を行うことはできませんが、血液検査にて健康診断などの基礎項目から内分泌検査である甲状腺機能検査、副腎皮質機能検査、心臓の検査、アレルギー検査など、幅広い検査に対応しています。
ペットの往診で、最も多い病気に、猫の甲状腺機能亢進症があります。特に、高齢猫に多い傾向で、多くの場合が動物病院への通院歴がほとんどない猫ちゃんです。
今回は、急に吐く回数が増えて、ご飯を食べなくなってしまった猫ちゃんのお話です。
ご紹介するのは、東京足立区在住で19歳の高齢猫さん、ミルちゃんです。
頻回の嘔吐(高齢猫/甲状腺機能亢進症/猫の嘔吐/東京足立区)
高齢猫のミルちゃんは、これまでほとんど動物病院にかかったことがないぐらい元気な猫ちゃんでしたが、ここ最近嘔吐(吐き)回数が増えて食欲が落ち、痩せてしまったとのことでしたが、ストレスが心配で動物病院に連れていけないとのことで、ペット往診をご希望されました。東京足立区のため動物病院はたくさんあります。猫ちゃんをキャリーに入れて車に乗せることができればスムーズに動物病院まで連れていくことができると考えられそうですが、そんなに甘くはなく、猫ちゃんの場合は、キャリーに入れて持ち上げた瞬間から泣き叫んでしまうくらいのストレスを感じてしまう子がほとんどです。
詳しくお話をお伺いすると、最近まではよく食べていたそうなのですが、最近になってよく吐くようになってしまい、食べても吐いていて、徐々に食べなってしまったようです。
もともとよく吐く体質だったそうなので、最初は気にしていなかったらしいのですがあまりにも今までは嘔吐の後もすぐ食べていましたが今回は食べなくなってしまったとのことでした。
猫ちゃんは、毛玉などをたまに吐き出すという情報や経験から、動物病院に連れて行けない猫ちゃんと暮らしている飼い主様は猫の嘔吐を軽視しがちです。猫ちゃんの生理的な嘔吐は、せいぜい週1回程度であり、1日に何回も、または週に複数回の嘔吐を認めた場合には、異常を疑ってください!
ミルちゃんはお話を聞いている間、ずっと自分のベットで横になっており、すごく苦しそうでした。
今回の症状はさまざまな病気でよく見られる症状なので、何が原因なのかを見るために血液検査は必須と判断しました。
ミルちゃんをお母さんに連れてきてもらい、いよいよ身体検査開始です。ミルちゃんはほとんど動く力がなく、辛そうな様子でした。
身体検査では、激しい脱水、削痩、心拍数の上昇が認められました。その後血液検査をするために、採血も頑張ってもらいました。
高齢の猫ちゃんは通常血管が細く、採血に時間がかかってしまうことが多いのですが、ミルちゃんは血圧が高いのか、採血はすぐに終わりました。
高齢の猫ちゃんで血圧が高い場合、甲状腺の疾患や腎臓病が疑われます。
ミルちゃんも例に漏れずこの2つの疾患を疑いました。
激しく脱水しているので、点滴と吐き気止め、胃薬などを注射しこの日の診察は終了としました。点滴中にも、いつも大好きなおやつをあげてみましたが全く見向きもせず、とても心配な状態でしたが、次の日に再診予定でこの日はお薬が効いてくる頃に少しずつ好きなものをあげてみてもらうことになりました。
血液検査の結果では、肝臓の数値が少し高めではありましたが顕著ではなく、甲状腺ホルモンの数値がかなり上昇していました。このことから、甲状腺機能亢進症と診断し、治療を開始することになりましたが、この疾患の治療法というのが2パターンあります。
まず、そもそも甲状腺ってなに?という方も多いでしょう。
甲状腺とは
甲状腺とは、身体の代謝をつかさどっている臓器で、脳からの刺激を受けて、甲状腺から甲状腺ホルモンが放出されます。甲状腺ホルモンは、身体中にまわり様々な臓器に働きかけます。
例えば腸の動きを活発にしたり、心拍数を上げたり、血圧を上げたり、日常生活に欠かせないものです。
しかし、このホルモンは、通常ある程度の血中濃度になると放出されなくなるのですが、甲状腺機能亢進症になるとこのホルモンが出続けてしまいます。
その結果、腸の動きが活発になりすぎて嘔吐してしまったり、未消化のままご飯が消化管内を動いていくので下痢をしたり、心拍数が上昇するので心臓に負荷がかかってしまったり、と様々な影響が出てきます。ミルちゃんもおそらくこれの影響でしょう。
ではどうやって治療するのでしょう。
甲状腺機能亢進症の治療法
1つはご飯を変えることです。
甲状腺ホルモンはヨウ素から出来ているので、摂取するヨウ素を減らすことで体の甲状腺ホルモンの合成を抑えることができる、という仕組みです。
ただし、この治療法のデメリットとしては、専用の療法食以外を食べられない、ということです。専用ご飯以外にはヨウ素が入っているので、また身体の甲状腺ホルモンが上がってしまうことがあるのです。
2つ目は投薬治療です。残念ながら注射薬はないのですが、内服薬で甲状腺ホルモンを抑えるお薬を毎日飲ませることで、治療ができます。
こちらのデメリットとしては毎日投薬が必要になることですが、メリットとしては何でも好きなものを食べられるので、メリットの方が大きいのかなという気はします。
ただし、甲状腺を治療することで、高齢猫さんでもっとも注意しなければならないのが水面下に隠れていた腎臓病の存在が露わになることです。
甲状腺機能亢進症の状態だと血圧が高いため、腎臓にとっては血流が豊富になって良いことのため、これを治療すると腎臓病が露呈することが多々あるのです。
しかし、甲状腺を治療しなければ全身の負担が大きすぎるため、甲状腺は治療していかなければなりません。
ということで、ミルちゃんのご家族様にも治療法と腎臓病についてご相談したところ、まずはご飯を試してみたい、とのことで試しにお渡ししてみることになりました。
ミルちゃんは、吐き気止めを注射した後からよく食べてくれるようになり、ご家族様もホッと一安心した様子でした。お伺いした際に甲状腺機能亢進症用のご飯をあげたところ、缶詰はすごくよく食べてくれました!ということで、こちらで続けていくことになったのですが、1週間ほどで飽きてしまったらしく、ほかのフードしか食べなくなってしまい、内服による治療を行うこととなりました。
飼い主様としては、出来るだけ負担が少なくなるように、とご飯を選択されたのですが、やはり食べてくれなければ意味がなくなってしまうので、好きなご飯を与えてもらうことになりました。
内服は案外嫌がらずに飲むことが出来、飼い主様もこれなら続けられそう、とのことで私たち往診専門動物病院わんにゃん保健室のスタッフも安心しました。
これからは、ミルちゃんの腎臓数値が上がらないことを祈りつつ、定期検診を行なっていくことになっています。
近年、猫ちゃんの平均寿命が延びていて、高齢の猫ちゃんを診させて頂くことがすごく増えました。
それに伴い、やはり高齢ということで少しのストレスでかなり消耗してしまう猫ちゃんが多いように感じております。
また、猫ちゃんは動物病院に行くのをすごく嫌がる子が多いので、定期検診をして来なかった、という方もたくさんいらっしゃると思います。
高齢になると、元気そうに見えていても、検査をしてみることで見えてくることもありますし、気をつける点が分かるとより長く一緒にいられるようになるかと思います。
動物病院が苦手な猫ちゃんでも、お家を診察室にする、往診専門動物病院わんにゃん保健室では検査や処置など、いろいろやらせてくれる子が多いですので、定期検診や体調が悪くなってきたと感じる飼い主様は、待たずに往診専門動物病院わんにゃん保健室までご連絡ください。
愛猫・愛犬がいつまでも健康に、ゆっくりと大好きなご家族様と少しでも長く一緒に入れる社会の手助けができるように、日々邁進していきます。
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