こんにちは!
往診専門動物病院わんにゃん保健室では、往診を依頼されるペットの多くが高齢の猫ちゃんです。
猫ちゃんの多くが、将来的に腎臓機能が低下する恐れがあるため、猫ちゃんを迎え入れることを決めたその日から、将来訪れるであろう闘病生活をどこで誰とどんな風に迎えるのか、想定しておきましょう。
そんな今回は、慢性腎臓病の猫ちゃんのお話です。
慢性腎臓病とは皆さんご存知ですか?
猫ちゃんを飼ったことがある方、現在猫ちゃんを飼っている方は耳にしたことがあるかもしれませんね。
慢性腎臓病とは、簡単に言うと腎臓の血管が減っていき老廃物が身体に溜まっていってしまう病気です。
そして、老廃物が溜まることでさまざまな症状を引き起こします。
今回は、そんな慢性腎臓病を持った高齢猫ちゃんとご家族様のお話です。
症例は東京都渋谷区在住のりんちゃん、17歳の高齢猫ちゃんです。
りんちゃんとの出会いは1年ほど前のことです。食欲が落ちていてよだれが増えてきたけれど、動物病院に連れて行くとストレスが強くて帰るとぐったりしてしまうとのことで、往診をご希望されました。
食欲が落ちているとのことでしたので、お電話当日にお伺いさせて頂くことにしました。
お家にお伺いすると、りんちゃんはかなり人見知りなようで、別のお部屋に逃げているとのことでしたので、先に詳しくお話しをお伺いすることにしました。
りんちゃんは若い頃はワクチン接種に動物病院に行っていたとのことでしたが、動物病院での過度の興奮により家に帰ると、次の日まで元気がなくなってしまうほど疲れるらしく、以来元気でもあったので、健診などはせず、動物病院には行っていなかったそうです。
しかし、ここ1週間ほど元気食欲が落ちてきていて、特にこの2日ほどはほとんど食べずに寝ているとのことで、往診専門動物病院わんにゃん保健室へお電話をいただいたとのことでした。
ここで、高齢の猫ちゃんで元気食欲がないなくなってしまった時に必ず考えなければならないのが、慢性腎臓病です。
慢性腎臓病は数年単位で悪化し、猫ちゃん自身が症状を隠してしまうため、急に症状が出る頃には悪化してしまっていることがよくあります。
今回のりんちゃんもまずは慢性腎臓病を疑い、診察を始めることとしました。
まずは身体検査です。
りんちゃんは小さくなって身を潜めていましたが、バスタオルで包んで身体検査を始めました。
身体検査では、削痩と重度の脱水、そして口の粘膜の色が薄くなっていること、そして多量のよだれが認められました。
このことから、血液検査も必要と判断し、ご家族様にご同意を頂いて採血も実施することとしました。
りんちゃんは採血も頑張ってくれて、残るは治療のみです。
よだれが出ていることから、吐き気が予測されたので、吐き気止めと胃薬の注射、点滴を行い、その日は診察を終了としました。
りんちゃんは最後まで我慢強く耐えてくれて、解放するのすぐに隠れてしまいました。
ご家族様には、貧血があるかもしれないこと、重度の脱水があること、慢性腎臓病が疑われることをご説明し、次の日にもう一度再診にお伺いすることをご説明し、好きなご飯をいくつか置いておいてもらい、食欲に変化があるか見て頂くことにしました。
血液検査では、軽度の貧血が認められました。また、腎臓の数値がかなり上昇しており、3〜7日程度の集中的な皮下点滴治療が必要と判断しました。
次の日りんちゃんのお家にお伺いすると、りんちゃんは相変わらず別のお部屋に行ってしまっていましたが、ご家族様によると少しウェットフードを口にしてくれていたとのことでした。
顔つきも治療前より良いとのことで、私たち往診専門動物病院わんにゃん保健室のスタッフも安心しました。
その後ご家族様に血液検査の結果をご説明させていただきました。
血液検査では重度の慢性腎臓病が疑われ、かなり脱水も進んでいることから数日間の点滴治療が必要であること、貧血があることから貧血に対する注射も必要である事をご説明したところ、ご同意が得られましたので、その日も引き続き点滴治療を行うこととしました。
また貧血に対しては、血液を作るホルモンの注射を実施することになりました。
りんちゃんには、この日も治療を頑張ってもらい、まずは3日間集中的に治療を行い、食欲や活動性があがるかどうかを見て頂くことにしました。
ここで、慢性腎臓病で起こる初期症状や治療について少しご説明をさせていただきます。
慢性腎臓病では、猫ちゃんでは最初に水の再吸収能力が落ちてしまいます。
そのため、尿量が増え(おしっこの量が多い)、脱水が進みます。これがいわゆる多飲多尿と言われる状態です。
その後慢性腎臓病が進行すると、体の中に尿毒素が溜まってしまい尿毒症となって、吐き気や嘔吐による食欲不振、あるいはひどいときには痙攣を起こします。
また猫ちゃんでは、必要カロリー量が不足してしまうと代謝経路が変わってしまい、肝臓に脂肪が溜まって脂肪肝となってしまいます。そうすると黄疸などの肝不全の症状が現れます。
そうなる前に、尿毒素がたまらないように治療が必要です。
また腎臓では、骨髄に向けて造血ホルモンを放出しています。
慢性腎臓病ではその造血ホルモンが不足し貧血になると言われています。
貧血が進行すると、歯茎の色が白っぽくなったり、舌の色が薄くなってきます。
それでは具体的にどのような治療するのでしょうか?まず尿毒素がたまらないように、点滴にて水分補給し、体から尿毒素の排出を促します。
また吐き気がある場合には胃薬や吐き気止めを使って、症状を緩和してあげることが重要です。
貧血に関しては、造血ホルモンの注射をして骨髄にて造血を促します。
りんちゃんの場合は、これらの治療を集中的に行うことで、3日ほどでドライフードも食べてくれるようになりました。
その後は1週間は毎日点滴を行い、腎臓の数値が下がったことを確認して、点滴の間隔を開けていきました。
今では、りんちゃんは3日に1回の点滴で、数値を維持できています。
このように、高齢猫では突然体調が悪くなることがよくあります。
しかし実は以前から少しずつ体の中で変化が起きていることが珍しくありません。
少しでもその変化に早く気づくために、尿量や飲水量、体重等を日々チェックすることが大切です。
往診専門動物病院わんにゃん保健室では、高齢猫の緩和ケアにも力を入れています。
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