こんにちわ!
往診専門動物病院 往診獣医師の石川です。
暑くなると、お家の猫ちゃんの飲水量が増えたと感じている飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか?
もちろん、気温が上がると猫ちゃんの飲水量が増えることもありますが、本当に飲水量が増えたのは気温の影響でしょうか?
猫ちゃんの飲水量が上がるのは様々な原因があります。
その中でも何かしらの疾患で飲水量があがることもありますので、注意が必要です。
中でも、高齢の猫ちゃんの場合は、甲状腺機能亢進症や慢性腎不全、糖尿病やリンパ腫によっても飲水量は増えることが多くみられます。
飲水量が増えた場合にはこれらの疾患を必ず考えなければなりません。
猫ちゃんの多くが動物病院が苦手で、長年ネットの情報だけで戦ってきたご家族様って意外と多いんです。
どうにも嘔吐が止まらなくて、飲水量が多すぎるし、明らか腎不全だろうなぁと、ある程度病気が進行してから、往診のご連絡をいただくことがほとんどです。
検査すれば何かしら見つかりますが、それによって症状を緩和できるのであれば、最初はしっかりと検査をすることをお勧めします。そして何より、そうなる前に当院までご連絡いただければ幸いです。
今回は、暑くなり始めて飲水量が増えたとのことでご相談を頂いた高齢猫の症例についてお話させていただきます。
東京足立区、高齢猫、よくお水を飲む、吐く
症例は東京都文京区在住の16歳の高齢猫のマロンちゃんです。
マロンちゃんは高齢ではありますが、かなりパワフルらしく、動物病院に連れて行こうとキャリーに入れようとするとすごい力で抵抗してしまうため、往診専門動物病院わんにゃん保健室にご相談を頂いたとのことでした。
マロンちゃんは、ここ2,3か月の間に飲水量が増えたとのことで、それとともに排尿量も増えたため、最初は暑さからきているのかと考えられていたそうなのですが、あまりにも以前よりもお水が減るのが早いため気になり、往診専門動物病院わんにゃん保健室にご相談を頂いたとのことでした。
マロンちゃんのお家にお伺いすると、マロンちゃんは扉が開いた音に反応して2階に逃げて行ってしまったため、先にご家族様に詳しくお話をお伺いすることとしました。
マロンちゃんは元気さや食欲は変わらず、すごくよく食べるとのことでした。しかしここ2,3か月お水を飲む量がすごく増えていて、気になるとのことでした。いわゆる多飲多尿の状態です。
冒頭にもご説明した通り、高齢猫ちゃんが多飲多尿の症状を示している場合には甲状腺機能亢進症や慢性腎不全、糖尿病やリンパ腫は必ず考えなければいけません。
そのことをご説明したうえで、血液検査をまずご提案させていただいたところご同意を頂きましたので、マロンちゃんのお部屋にお邪魔して処置を始めさせていただくこととしました。
マロンちゃんはお部屋のベッドの下に隠れていましたが、何とか出てきてもらい、バスタオルに包んで処置を始めました。
まずは身体検査です。
粘膜色は問題ありませんでしたが、軽度の脱水が認められました。その後は採血です。
採血は足をのばさなければなりませんが、マロンちゃんはそれが嫌なようでかなりの力で抵抗してましたが、往診専門動物病院わんにゃん保健室のスタッフはこのような猫ちゃんにも慣れていますので素早く採血を終わらせて、マロンちゃんを開放しました。
その場で血糖値のみ測定し問題がなかったので、ひとまず糖尿病は否定的でした。それ以外の結果は後日ご説明させていただくこととして、現状症状はないのでその日は内服薬の処方はせず、血液検査の結果が出次第ご連絡させていただくこととしました。
血液検査では、腎臓の数値の軽度な上昇、甲状腺ホルモンの高値が認められましたが、それ以外には大きな異常値は認められなかったことから、甲状腺機能亢進症、初期の慢性腎不全と診断されました。
もう一度マロンちゃんのお家にお伺いして血液検査の結果をご説明し、内服薬の開始をお話したところ、内服薬は飲ませたことがないが、頑張ってみますとのことで、まずは2週間分お渡しして、2週間後に甲状腺ホルモン濃度を測定することとなりました。
では、甲状腺機能亢進症はなぜ治療しなければならないのでしょう?
そもそも甲状腺という臓器は、体の代謝を調節している大切な臓器で、心拍数や血圧、血糖値など全身の臓器に影響しています。甲状腺ホルモンがたくさん出ると、体は常に代謝が上がった状態となってしまうため、もちろん食欲も出て、活動性も上がるので、見た目はすごく元気そうに見えます。しかしその一方で、体は代謝が上がって負担がかかった状態となってしまっています。心臓では、心拍数も血圧も上がるので、血栓ができやすくなってしまい、消化管では動きが亢進してしまうため未消化物のまま流れて行ってしまい下痢が起こったり、逆に嘔吐が起こってしまうこともあります。また、腎臓では血圧が上がって血流が増えるため、見た目の腎臓の数値は良くなりますが、甲状腺機能亢進症を治療して血圧を正常に戻すと腎臓の負荷が減った結果腎臓の数値が上昇してしまうことも珍しくありません。
そのため、甲状腺機能亢進症を治療する際には慢性腎不全は必ず注意しなければなりません。
マロンちゃんは2週間後の血液検査では、甲状腺ホルモンの数値は正常値になっていましたが、腎臓の数値はわずかに上昇がみられました。そのため、ご家族様とご相談したうえで、慢性腎不全の内服薬も開始することとしました。
マロンちゃんはお薬も難なく飲めているそうで、ご家族様も安心されていました。
次の血液検査で再び甲状腺の数値や腎臓の数値をチェックしつつ今後の検査間隔などをご家族様とご相談していく予定です。
今回のマロンちゃんのように、飲水量の増加は、暑さの影響だけでないことは少なくありません。
何か異変や変化を感じたらそれは大切な猫ちゃんからの病気のサインかもしれません。
病院に連れていけないから、とあきらめるのではなく、一度往診専門動物病院わんにゃん保健室にご相談ください。
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