“…元気がない”
これには指標がないため、判断するのが非常に難しい症状の一つになるかと思われます。
元気があるかないかの判断には、“日常の普通”を把握している必要があり、その判断ができるのはご家族様です。
例えばこんな変化が、「元気がなさそう」に入ります。
□好きだったキャットタワーに登らなくなった
□鳴いて甘えてきたのに甘えてこなくなった
□呼びかけに対して反応が遅くなった、ないし反応しなくなった
□ご飯の音で近づいてきたのに、来なくなった
□寝てる時間が多くなった
□一箇所から動かなくなった
□動かないのに、目をあけて寝ていないような気がする
□普段は抱っこが嫌いなのに、静かに抱っこさせてくれた
などなど、挙げればキリがないですが、さまざまな角度から見て「元気がなさそう」と判断していきます。
猫ちゃんの“元気がなさそう”は、ちゃんと具合が悪い証拠だと考えてもらった方がいいです。
今日は、元気がなさそうだという主訴から、検査結果、腎不全ステージ4だった猫ちゃんのお話です。
何気なく気づいてしまったその違和感、無視していませんか?
違和感に気づくきっかけ
東京千代田区にお住まいの、トラちゃん18歳、年齢の割に元気で、キャットタワーの上り下りと、お父さんの膝の上が大好きで、夕食の時間になると、いつも飛び乗って甘えていたとのことでした。
しかし、お母さんには強気で、「撫でろ」とお腹を見せてはくれるのですが、抱っこしようとすると怒って逃げてしまうという、気難しいキャラクターだったとのことです。
ある日お仕事から戻ると、なんとなく動きが悪い、というよりは冷たい床の上で寝そべったまま移動していなさそうだなという違和感を感じたとのことでした。
以前にも、少し動きが悪いなという日はあったのですが、その時は放っておいても大丈夫そうという感じがして、案の定3日程度で復活したという経験はあったとのことでしたが、今回の違和感は「何か変だな」っていう怖い感覚を覚えたらしく、急いで往診を予約したとのことでした。
往診を選んだきっかけ
動物病院へ通院させることもできそうなのですが、普段から抱っこが嫌いだったということもあり、あまり無理に抱きかかえてストレスを与えるくらいであれば、家でまず見てもらいたいと思ったとのことでした。
現に、採血時に低血圧を疑うほどに血管が見えにくかったので、この選択は英断でした。
問診内容
ぱっと見ふさふさで、ガリガリだったり顔が浮腫んでいたりなどの所見はなかったのですが、伺っている性格との違いは明らかで、わんにゃん保健室のスタッフが近づいても逃げることなく、じっとしていました。
食欲は普段の30%以下くらい、水は結構飲んでいるとのことでした。
トイレの回数は減ったとのことでした。
ポイント:“性格の変化には要注意”
年齢を重ねて丸くなったなど、加齢と共にある程度の変化は伴ってきます。
ここで重要なのは、「急激な変化」です。
急激な変化とは、昨日と今日で雰囲気が変わったなど、明らかな違和感として気づく変化です。例えば、昨日まではシャーシャーで触れなかった猫ちゃんが、今日は触っても、抱っこしても怒らない、などです。逆も然りで、普段は温厚な猫ちゃんが、急に怒りん坊になったというのも注意が必要です。
前者であれば、単純に具合が悪いか、持病が悪化して症状を伴ったのかなど。
後者であれば甲状腺機能亢進症や脳神経系疾患、どこかが痛いなどが考えられます。
検査
①全身の状態チェック(一般身体検査)
お母さんからの連絡が早期だったため、トラちゃんは削痩することなく、診察を受けることができました。
腰仙部と言われる腰椎と仙椎の関節部分(腰の辺り)に、圧痛があること以外、大きな所見は認めませんでした。
ポイント: “高齢猫ちゃんで、腰仙部の圧痛はよくあること”
猫ちゃんは、体の構造上、腰仙部に長い間負荷がかかってしまいやすい生き物です。
猫ちゃんが運動するときは、全身の筋肉と関節をうまく使用してしなやかに、かつ瞬発力のある動きを見せますが、ちゃんと体には負担がかかっているということですね。
対策や予防など、元気な時には基本的に考えないでいいです。高いところにのぼらせないなど、教科書的な判詞はあっても、現実問題キャットタワーとか高いところは猫ちゃんの大好物なわけなので、それを取り上げて逆にストレスを加えるのは、そっちの方が体に良くないと考えています。
元気がないなと感じた時に、その部分を圧迫すると皮筋がピクピクしたり、腰が下がったりなどの反応があれば圧痛ありと判断できます。
しかし、もし椎間板ヘルニアなどの病気があった場合に、むやみに刺激を加えたことが致命傷になりかねないので、違和感を感じたら、獣医師に相談しましょう。
②腹部超音波検査
肝臓はやや白くなっていて、軽度の脂肪肝はありそうではありましたが、特記すべき所見は認めませんでした。
腎臓の大きさも左右対象で、左右共に腎臓の血流が弱いことがわかりました。
③血液検査
続いて血液検査です。
血液検査では、BUN >140mg/dL、 CRE 7.5 mg/dL、 C a 10.5mg/dL、IP >15.0mg/dL、 Na 162mEq/L、 K 3.0mEq/L、 Cl 117mEq/L、 SDMA 32μg/dL、 Hct 38.1%でした。
(※ここでは腎不全と相関性の高い数値のみ記載しています。)
④尿検査
比重 1.013、タンパク(−)
(※尿は翌日の診察で、その日の朝に採取してもらったものを使用しています。)
以上の検査結果から、腎不全ステージ4ということがわかりました。
今後の診療プラン
腎不全ステージ4でタンパク尿陰性ということなので、当院では内服薬2種類に併せて皮下点滴プランを組みました。
食欲が下がっていることもありますが、血液検査で腎臓の数値が飛んでいることを考えると、すぐに手放しはできないと考え、最初の3日間は朝・夜の皮下点滴で訪問し、3日後の検査でデータが安定してきたことと、食欲が上がってきて元気になってきたこともあり、1日1回の皮下点滴とさせていただきました。
また、この段階でご家族様だけで皮下点滴をお渡しも可能だったのですが、お父さんの出張と重なってしまってしまったため、帰宅までの2週間は毎日お伺いして実施し、戻られてから皮下点滴トレーニングを行い、お渡しという流れになりました。
・最初は1日2回の皮下点滴
・3日後の血液検査と尿検査で改善傾向を認め、1日1回の皮下点滴に変更
・1週間後の血液検査と尿検査でさらに改善傾向を認め、2日に1回の皮下点滴に変更
・1週間後の血液検査と尿検査でさらに改善傾向を認め、週2回の皮下点滴に変更
・1ヶ月に1回の血液検査と尿検査で安定しているため、プランを維持
まとめ
今回は、何よりお母さんの初動の速さが功を奏したと思います。
もう少し放っておくと、嘔吐が止まらなくなり、重度の貧血を起こし、また腎不全末期まで進行してしまい、皮下点滴では対応できず入院するか家で看取りを視野に入れての集中的なケアをしてあげるかの選択を迫られていたと思われます。
腎不全って腎臓の病気なのですが、腎臓の病気って進行性の病気なため、早期発見・早期治療が何より重要とされています。
気づきに対する対策としては定期健診なのですが、猫ちゃんという生き物である手前、そう簡単に検査に連れ出すことが難しく、結果動物病院離れを起こしてしまっている状況が多く見られます。
動物病院へ通院できるうちは、また連れ出せる性格の猫ちゃんであれば、定期的な検査をしてもらうようにしましょう。頻度は、年2回が目安です。さらに、10歳を超えてきたら、すこなくとも年4回(3ヶ月おき)は検査を受けさせてあげ、異常値が見つかったら早期から何ができるのかを獣医師と相談しましょう。
通院が難しい場合には、お近くの往診専門動物病院に、まずは相談してみましょう。
東京23区とその近郊であれば、私たち、往診専門動物病院わんにゃん保健室が全力でサポートさせていただきます。
ペットの緩和ケアと看取りのお話
ペットの緩和ケアやターミナルケアをお考えのご家族様向けに参考ページを作成しました。
今後、もし慢性疾患など、治療による根治ではなく、症状や病状のコントロールのみと診断された場合、通院で今後も診てもらうか、在宅に切り替えるべきかを考える参考にしていただければと思います。
是非ご一読ください。
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