猫ちゃんは気分屋な生き物で、昨日まで大好きだったご飯を、今日は全く見向きもしない、といったことが日常茶飯事かと思います。
猫ちゃんで有名なフレーズで、“3日間食べないと肝臓の病気になる”というものがあります。
これはどういうことかというと、ご飯を食べないことによって飢餓状態になると、糖分の不足が起き、どこからか生命維持をするためのエネルギー供給源を探す必要があります。
そこで、身体が探し出したエネルギー共有源は脂肪であり、それを分解することでエネルギーを作り出します。
その過程で、肝臓にダメージが蓄積してしまい、脂肪肝のような状態へと移行していきます。
肝臓のダメージは不可逆性のような印象でいた方がよく、発症してしまったら、いかにして維持し症状を出させないかに尽力していきます。
ほとんどの場合、翌日には食べてくれますし、またはご飯を変えることによって「そうそう、これこれ」というように、悩んでいるご家族様を嘲笑うかのうようにガツガツ食べてくれたりもするので、食べてくれないという現象に慣れてしまうようになります。
しかし、上記のように“3日間食べないと肝臓の病気になる”ということを常に考えていなければいけませんし、異常かもと思って毎回動物病院に連れ出すのは、猫ちゃんのストレスが気になることと思います。
そのため、もし猫ちゃんが通院好きなタイプであれば例外としますが、そうでなければご家族様側が「小さな変化」に気づき、冷静に判断する必要があります。
本当に食欲低下だけでしょうか?
普段と比べて、運動性が下がっていませんか?
以前は大丈夫だったその“以前”は、何年も前のことではないですか?
経験からの期待的観測は危険です。
その結果、致命的なものとならないように、私たち人間が過去から学んであげる必要があります。
今回は、経験的観測により長く「食欲低下」を見逃してしまった猫ちゃんのお話です。
変化に対しては、無理矢理でもある種の指標を立て、感情的ではなく客観的に評価する。
そんなきっかけになればと思います。
違和感に気づくきっかけ
東京足立区にお住まいの、くるみちゃん12歳、食ムラの多い性格とのことでした。
普段はご飯の種類を3~4パターン変えるだけで大体食べてくれたのが、ここ最近は準備しても全く興味を示してくれなかったとのことでした。
しかし夜になると1~2口だけ食べてくれた後があるので、少しでも食べてるなら大丈夫と判断してしまったとのことでした。
その状態で1ヶ月ほど経ってしまい、丸3日ご飯を全く食べなかったため、これはおかしいと思ったとのことでした。
ポイント:柔軟な姿勢で向き合う
こういった猫ちゃんへの対策は、これを食べなきゃあげない!という強硬姿勢を取るより、柔軟にご飯を選んであげることが大切です。
そのため、ご飯の種類をたくさん準備しておく必要があるので、ここで注意しなければいけないのが、食物アレルギーの存在です。
ご飯を食べて、体調に異変があった場合には獣医師に相談しましょう。
往診を予約したきっかけ
家の中ではゴロゴロなくるみちゃんですが、キャリーの中に入れるとものすごい勢いで鳴き叫んでしまい、それがトラウマで動物病院離れしてしまったという背景もあり、通院ではなく往診でお願いしたとのことでした。
当初は近隣の動物病院でも往診をしているとのことだったので、電話して相談してみたところ、すでに継続診療をしている子に限って往診をしていると言われてしまったり、別の動物病院では往診では何もできないから連れてきてくださいと言われて切られてしまったなどあったとのことでした。
調べてみたところ、当院を発見し、ご連絡いただいとのことです。
ポイント:動物病院に付属する“往診”はオプションサービス
動物病院は午前・午後診療時間以外に入院患者のケアや検査、手術などを行っています。
例えば10:00診療開始であれば、もしかしたらスタッフの出勤は8:00とかで、そこから入院動物たちのケアを行い、中にはギリギリで生きている子たちもいるため、朝からアクセル全開で仕事に臨んでいます。
午前診療が終わると、昼オペと精密検査、午後の診療が終わると入院動物のケアと夜オペの準備、夜オペ、更には病院清掃業務など、多岐に渡り、かつそのどれもが重たい作業です。そんな中に往診をどう盛り込めるかが勝負ですが、多くの場合、まずは通院・入院している目の前の犬猫を助けることで精一杯のはずです。
それでも往診をしてくれるのは、先生方の優しさからであると思ってあげてください。
そのため、怪我などの1回で済む治療以外は、往診専門動物病院まで連絡するようにしましょう。
問診内容
食欲不振というお話以外は、普段と変わりないですとのことで伺っていましたが、状況は違いました。
元気はなく(運動性低下)、食欲は廃絶、嘔吐も1日1回以上あり、便秘気味、排尿はできていますがその臭いはほとんどありませんでした。
爪を見てみると太くなっていて、長い間爪研ぎができていなかったこともあり、おそらく長く体調が悪かったのだと考えました。
毛並み、皮膚の状態もあまり良くなく、重度の脱水を起こしていると判断しました。
ポイント:先入観ほど怖いものはない
往診では、元気、食欲、排尿、排便、嘔吐の5点をまずは一般状態の確認でお伺いしています。
日常的に繰り返していたり、または長い年月をかけて起きた変化だったりすると、ご家族様側に耐性ができているため、“まぁ、今回も大丈夫でしょ”という先入観を持ってしまう傾向があります。
動物病院に連れて行けない犬猫と生活していると、ある程度先入観を持たざるを得ないと思いますが、できれば専門家に相談できる環境を作ってあげましょう。
検査
①全身の状態チェック(一般身体検査)
体重は3.5kgで、全盛期が6.8kgあったことを考えると半分近くまで下がっていました。
削痩状態であり、危険な状態だと判断しました。
目はうっすら黄色く、また耳の内側も若干黄色味を帯びていました。
②腹部超音波検査
肝臓は全体的にザラザラしており、胆嚢には泥が軽度に貯留していましたが、特記すべき所見は認めませんでした。
腎臓の大きさは、左が右に比べて少し小さめであり、また左の構造が崩れていて血流もかなり弱いことが確認されました。
右も構造が変化しており、血流は確認できたものの、やはり弱くなっていました。
③血液検査
BUN >140mg/dL
CRE 14.3 mg/dL
Ca 6.5mg/dL
IP >15.0mg/dL
Na 170mEq/L
K 2.5mEq/L
Cl 127mEq/L
SDMA 35μg/dL
Hct 25.6%
(※ここでは腎不全と相関性の高い数値のみ記載しています。)
④尿検査
比重 1.035
黄疸(+)
タンパク(+)
(※採血時に漏らしてくれたので、それを採取したものを使用しています。)
以上の検査結果から、腎不全ステージ4ということがわかりました。
今後の診療プラン
本来であれば入院管理をしてガンガン点滴を流したり、できることであれば腎臓の透析をおこなっている動物病院もあるので、そこで入院治療を行うことも選べるのですが、そうは言っていられないのが猫ちゃんです。
もともと動物病院への通院が苦手で、さらに知らない環境で数日間の入院、知らない人に囲まれ、知らない臭いがたくさんする中で、具合の悪いこの子を入院させられないと考えるご家族様がほとんどです。
それであれば、看取りを視野に入れてでも、家でできる範囲で全力でやってあげたいと希望されましたので、1日2回の皮下点滴を開始しました。
3日後の血液検査で、奇跡的に大幅な改善を認めました。
その後、点滴頻度を1日1回、そして2日に1回と漸減し、現在は1週間に2回+内服薬2種類でコントロールしています。
まとめ
単なる食欲不振だと思っていたら、腎不全だった猫ちゃんは、往診という診療形態であることから、かなり多く出会います。
先入観からの判断はかなり危険ですが、それでも毎回動物病院に連れて行くには、そのストレスでおかしくなっちゃうんじゃないかと考えられるかと思います。
それであれば、選択肢は1択で、ご家族様が専門的な知識を得ることです。
専門的と言っても、飼い猫ちゃんに特化した専門知識です。
猫ちゃんを迎えたということは、通院できない前提で、ご家族様が家で何ができるのかを先に考えておくことが大切です。
できる限り心残りがないように、できることを事前にできる分だけやっていきましょう。
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