犬猫の終末期ケアは、通院で行うのか、往診(在宅医療、訪問医療)で行うかの2つがあります。
終末期ケアは、動物病院ごと、もっと言えば、担当する獣医師ごとで違ってくることが予想されるほど、まだまだ確立されておりません。
私たち、往診専門動物病院わんにゃん保健室では、犬猫の在宅における終末期ケアを確立させるため、ペットの在宅終末期ケアに特化した訪問診療を行っています。
この子たちが、一番安心できる環境で、大好きなご家族様と一緒に最後の時間を過ごし、その腕の中で眠りにつくその日まで、私たちが全力でサポートしていきます。
今回は前回に引き続き、急に立てなくなってしまった大型犬の蛍ちゃんです。
2023年5月28日の初診でエコー検査にて肝臓がんを認め、2023年6月25日にご家族様のもとで、鳴き声をあげることなく、静かな眠りにつきました。
【再診2日目(2023年5月29日)】
状態は上がってきて、昨日はできなかったヘッドアップを見せてくれ、ご飯も食べられ、お水も十分に飲めているとのことでした。
この調子であれば、内服薬への切り替えを視野に入れられると考えられるくらい、状態改善を見せてくれたことがとても嬉しかったです。
この日も昨日に引き続き、皮下点滴による処置を実施しました。
【再診3日目(2023年5月30日)】
調子も上がってきたこともあり、この日に毛刈りを実施しました。
ペットの緩和ケア及び終末期ケアでは、日常の介護がどうしても切り離せません。
今後予想される介護トラブルは、事前に対策を練っておくことで、いざその時を迎えた時にスムーズに対処できる準備をしておくことが肝心です。
なお、調子も上がってきていることと、食欲もだいぶ戻ってきてくれたこともあり、内服薬処方に挑戦することとしました。
また、便が3日間出ていないということがあったので、排便を促すシロップを処方しました。
本日も皮下点滴での処置を行い、明日の診察前に内服に挑戦していただき、飲めたかどうかによって注射薬プランで行くか、内服薬プランで行くかを決めることとしました。
【再診4日目(2023年5月31日)】
立ち上がりました!
初めて蛍ちゃんが立ち上がっている姿を見ることができました。
わんにゃん保健室スタッフ一同、飛び上がるように嬉しかったです。
この日から内服薬プランに切り替え、まずは3日後に再診を組んでいき、そこで再度検査を実施してモニタリングしていくこととしました。
【再診8日目(2023年6月4日)】
立ち上がれたのは前回の診察の時だけであり、以降立ち上がれないとの事でした。
ただ食欲はあり、たくさんのお薬でしたが、蛍ちゃんは魚肉ソーセージが大好きなため、その中に隠すことで飲ませられているとの事でした^^
【再診14日目(2023年6月10日)】
もともとお尻のあたりや後肢を触られるのを嫌がる性格ではありましたが、その嫌がり具合が上がってきてしまい、お尻のあたりを触ると怒るようになってしまったとの事でした。
介護が必要なステージになると、排泄物による汚れの付着をいかにして取り除いてあげるか、いかにして付着し辛くするか、そして、いかにしてシンプルかつ簡略化するか、がとても重要になってきます。
小型犬や猫ちゃんなど、比較的触ったり持ち上げたりすることが容易なサイズの子たちならまだしも、怒りやすい子や、体重が大きい大型犬となると、その対策はとても重要となってきます。
蛍ちゃんは大型犬のため、移動させるにはお腹の下にタオルを入れるなどして持ち上げる取っ掛かりを作ってあげなければいけないため、その取っ掛かりをつけるためにお尻や後肢を持ち上げます。
この行為が蛍ちゃんは苦手なため、その対策を練っていましたが、もしかしたら関節や神経に痛みがあるのかもしれないと考え、痛み止めでどこまで抑え込めるかを評価することとなりました。
【再診21日目(2023年6月17日)】
痛み止めが功を奏したようで、ハンドリングの時もそこまで嫌がらなくなったとの事でした。
介護が必要なステージでは、痛みに関して常に評価してあげることをお勧めします。
「どこを触ると嫌がるのか」
「どれくらい嫌がるのか」 など
痛みは生活の質を低下させる要因の一つです。
医薬品で緩和できるのであれば、体調に合わせた医薬品を使ってあげましょう。
また、疼痛緩和には投薬以外にも、もしかすると物理的な圧迫などによって生じる痛みであれば、介護によって緩和できるはずです。
大型犬の蛍ちゃんの介護はかなり難易度が高く、考えなければいけないことが多々ありましたが、ご家族様がみんなで力を合わせていただけたからこそ、さまざまな緩和プランを組むことができました。
【再診28日目(2023年6月24日)】
朝方に鳴いて呼ばれたので、痛いのかなと思って痛み止めを飲ませてあげたところ、1時間くらいで未消化物の嘔吐があったとの事でした。
急にガクッと下がったとの事から、もう内服薬を飲ませていくことが困難であると判断し、可能な限りを注射薬に切り替えました。
ペットの在宅終末期ケアでは、できる限りペットの負担を減らしてあげるため、どうしても内服薬でしか投与できないもの以外は、すべて注射薬切り替えを行ってあげたいと考えています。
また、終末期ケアのステージでは、嘔吐によって大きく状態が下がってしまうこと、またその時に救急で通院することがすでにできないこともあり、早めから毎日服用していただいています。
そんな中、すでに吐き止めを飲んでいるにもかかわらず嘔吐を認めることがあります。
物理的な要因も考えられますが、多くの場合、旅立ちを示唆しているケースが多いです。
この日は朝と夜に訪問し、皮下点滴にて投薬処置をしました。
【再診29日目(2023年6月25日)】
昨日よりもさらに弱々しくなった蛍が玄関で迎えてくれました。
もう何も食べられていないとの事でした。
朝の処置をして、また夜に訪問することとしました。
そして夜に訪問したところ、もうほとんど意識のない蛍ちゃんがそこにいました。
静かに眠っているようで、ご家族様と相談した上で、夜の処置はせず、このまま静かに旅立たせてあげることで合意しました。
この日の夜中、家族みんなが寝静まった頃に、鳴き声も上げず静かに旅立っていきました。
きっとあの姿のまま、穏やかに静かに眠りについたのだと思っています。
【蛍ちゃんの在宅終末期ケアのまとめ】
急に立てなくなったことを主訴に始まった往診でしたが、その症状は一過性のものではなく、隠れていた大きな持病から来るものでした。
初診時に実施した血液検査、超音波検査で膵炎と肝臓腫瘍、脾臓腫瘍が確認され、この日から始まった在宅終末期ケア。
昨日まではいつも通り、ご飯も食べられていたし、トイレもできたし、何ならお散歩だっていけていました。
最初の3日間は注射薬を用いた皮下点滴プランとし、その後安定してきたので内服薬のプランに変更。
立ち上がれなくなり、介護が必要になることを見越して、毛刈りなどのお手入れを早期から実施。
便秘があればシロップ剤で対処し、逆に軟便気味になれば下痢止めで対処。
痛みが強くなってくれば、多方面からの疼痛緩和。
内服薬が難しくなった時が来たら、注射薬を用いた皮下点滴プランに戻す。
蛍ちゃんは40kgクラスの大型犬でしたので、介護は本当に大変だっただろうと思っていますが、ご家族様の愛情あるケアのもと、終末期を走り抜くことができました。
2010年2月に、まだ3ヶ月齢の頃に保護された蛍ちゃんは、2023年6月25日、大好きなご家族様がクラスご自宅で、静かに眠りにつきました。
蛍ちゃんのご冥福を、心からお祈り申し上げます。
往診専門動物病院わんにゃん保健室
江本宏平、スタッフ一同
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