腎臓病にはステージがあります。
時間と共に、徐々に進んでいく病気に分類されるのが腎臓病であり、早期発見が大切であり、早期からご飯の選定やケア、投薬することで、進行を遅らせることが期待されています。
多くの猫ちゃんが動物病院への通院を苦手としているため、わんちゃんのように毎月のように動物病院に通院して状態を診てもらうことが叶わないのも事実です。
そのため、日常の中での変化を、ご家族様がしっかりと観察しておく必要があります。
「少し水を飲む量が増えたかな?」
「ご飯を残すようになった?」
「痩せてきた?」
そのほかにも、毛並みはどうなのか、ふらつきはあるのかなど、日常に潜む違和感に、目を光らせてあげましょう。
今回書かせていただくのは、腎臓病末期の猫ちゃん、ソマリの稟ちゃんのお話です。
最後の1週間を動物病院への通院ではなく、往診(在宅医療)に切り替え、できる限り負担のない時間をご自宅で過ごしたお話です。
2024年2月9日に出逢い、在宅医療プランを組み、負担のない範囲で、毎日の皮下点滴を頑張ってもらいました。
少しだけ元気さを取り戻すことができましたが、やはりステージは末期。
5日後の2024年2月14日、家族の見守る中、静かに眠りにつきました。
往診までの経緯
かかりつけの動物病院までは徒歩1分ほど近かったこともあり、年1回の予防接種には行くことが出来ていました。
腎臓病を指摘されたのは去年のことで、その日から3ヶ月に1回の通院検査の指示を出されたとのことでした。
2024年1月に入ると、食欲がだんだんと下がってきました。
2024年2月4日の通院時には、すでに食欲がほとんどなく、普段好きだったドライフードは全く食べられず、ウェットフードをなんとか食べてくれていました。
この日の検査結果で、腎臓の数値が大きく悪くなっていることを受け、入院管理とされました。
腎臓病の入院点滴では、多くの場合で3日間ほどの集中管理を行なった上で数値に改善が見られるか否かで、予後判断となります。
今回、3日間入院するも改善を認めないことから、余命宣告を受けたとのことでした。
かかりつけの動物病院からは、週2回の通院を促されましたが、もう動かすだけでも辛そうな姿を見ていて、往診に切り替えたいと希望されました。
初診(1日目)
お伺いすると、ソファーの下で寝転がっている稟ちゃんがいました。
状態は日々下がっているとのことで、数日前まではまだ普通に歩けていたものの、後肢の踏ん張りが効かないのか、ふらつきが強く出てきたとのことでした。
食欲もこの時点でガクッと下がっており、ウェットを1、2回舐め、リーナルリキッド(腎臓病用の液体ご飯)を強制給餌(10ml/回)で3回くらい、チュールを2本ほどやっと食べてくれたとのことでした。
おしっこの量も少し減った印象とのことだが、飲水量は多くなったような印象とのことでした。
最後の検査から数日しか経っていませんでしたが、急性変化の中にいることを考慮し、また当日の状態を加味した上で、検査を実施しました。
また、過去の検査結果から、すでに腎数値がかなり高くなっていることから、1日2回の皮下点滴が必要であると考え、同日、皮下点滴指導を実施し、無事打てるようになっていただけました。
1日2回の皮下点滴が実施できるようになると、在宅医療プランを組む上で選択肢が多くなります。
今回の稟ちゃんのケースでは、ご家族様が基本在宅していただけることを踏まえ、1日2回の投薬を踏まえた皮下点滴と、苦くない薬だけで組んだ医薬品シロップを1日1回の投与として、在宅医療プランを組ませていただきました。
そして、腎臓病の終末期では、多くの確率で発作が出ます。
この日の最後は、頓服薬の指導を行い、今後どんなことが起こりうるのか、その時何ができるのか、どんな選択肢があるのか、などをゆっくりとご説明させていただきました。
初日は2時間半ほどのお時間をいただき、綿密なプラン構築を行い、再診は翌日としました。
明日の朝の皮下点滴が、ご家族様だけで実施する最初の在宅皮下点滴です。
うまく行くことを祈って、この日は診察終了です。
再診(2日目)
前日とは打って変わり、一回だけでしたがダイニングテーブルまで飛び乗ったとのことでした。
食欲も上がってきたのか、割と食べた印象とのことで、チュール2本、ウェットフードをすりつぶしてペーストにしたものを20gほど、リーナルリキッドを少々、カツオのおやつにはがっつくほどだったとのことでした。
お尻がいつもおしっこで濡れているとのことを受け、介護用のお尻洗浄液をお渡しさせていただき、少しでも稟ちゃんに負担なく綺麗にしてあげられるような準備をさせていただきました。
再診(5日目)
3日前とは打って変わり、もうほとんど動けない様子でした。
1日中ずっとソファーの下で寝ており、あまり外に出てくることはなかったとのことでした。
食欲もなく、もうご飯も食べてくれなくなったとのことでした。
ここから強制給餌をするかどうかに分かれますが、状態とステージを考慮すると、もう無理して食べさせることで、逆に嫌な思い出ばかり作ってしまうことが懸念されることもあり、強制級はお勧めしませんでした。
お水を飲む量もガクッと減り、いよいよお別れの準備に入ったような印象を受けました。
いつまで点滴を続けるのかという質問を受けることがあります。
これには状態を把握していないと、一概にお伝えできませんが、何のためにその処置を行なっているのか、によって答えは異なります。
使用する医薬品、その用量、用法、愛犬、愛猫の病気または病状などをしっかりとかかりつけの動物病院、獣医師から説明を受けておくことで、その判断につながります。
稟ちゃんのケースでは、最後まで実施するようにお伝えさせていただきました。
四肢浮腫も、胸水や腹水の貯留も認めず、ちゃんと水を代謝できている状態であれば、そこまで点滴を絞る必要はありません。
ただ、もう皮下点滴を吸収できなくなってきた頃からは、輸液量をギリギリまで絞るという方法を取ることもありますので、当院では適宜お伝えさせていただいております。
次回の診察は4日後としましたが、もうその日が来る可能性は低いことも、同時にお伝えさせていただきました。
お別れ(6日目)
翌日の昼間に、稟ちゃんは眠りにつきました。
最後に1回だけ発作を起こしましたが、すぐにご家族様による鎮静処置を実施していただくことができました。
急変時に何もできないわけではなく、事前準備さえできていれば、ご家族様だけで対応できることはあります。
終末期の動物たちと過ごすのであれば、事前の準備と今後起こりうること、その時何をどうすればいいのかなどを、きちんとかかりつけ動物病院と、獣医師と、話し合っておくことが大切です。
最後まで本当に力強い子でした。
稟ちゃんのご冥福を、心からお祈り申し上げます。
わんにゃん保健室
スタッフ一同
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