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猫の口腔内扁平上皮癌(猫/往診/在宅緩和ケア)

猫の口腔内腫瘍で最も多いとされるのが、扁平上皮癌です。

 

扁平上皮癌を抱えると、口の動きに合わせて痛みや出血を伴う印象があり、ご飯を食べなくなり、動かなくなるという経過をよく見受けます。

 

また、発生場所にもよりますが、頬が腫れてくるように見えることから、歯の病気に分類される根尖部膿瘍を疑われ、根尖部膿瘍の治療に入ってしまう場合があります。

 

この場合にも、基本的には麻酔下での処置となるため、口腔内をしっかりと観察することができ、その違和感から細胞診などの実施を踏み切り、扁平上皮癌が発見されるというケースもあります。

 

また、初期であれば腫脹も軽度なため、もしその時に鼻風邪や鼻炎のような症状を伴っていた場合には、猫風邪などで様子見とされてしまうことが多いです。

 

猫風邪の治療に、もしプレドニゾロンなどのステロイドを使用されていた場合には、少し状態が改善してしまうということが起こってしまうかもしれません。

 

そのため、細胞診などの麻酔をかけた検査への踏み込みが遅れてしまい、猫風邪にしては症状が長く、改善したのに徐々に悪化してきておかしいとされ、ようやく麻酔に踏み切り口腔内を精査すると明らかな違和感を認め、検査、診断とつながるという、少し回り道をしてしまう可能性がありますので、注意が必要です。

 

この病気は、明らかな変化(頬の腫脹や鼻の形状変化など)を伴っていなければ、検査に麻酔が必要となることから踏み込まれづらいところがありますが、もし見つかれば腫瘍性疾患となり、可能であれば腫瘍を専門とする動物病院でがん治療に踏み込みましょう。

 

また、現状は慢性の猫風邪だと思い長期間の服薬をしている猫ちゃんの場合にも、一度セカンドオピニオンとして、腫瘍専門の動物病院で、がん専門医の診察を受けることをお勧めします。

 

今回書かせていただく症例は、東京江東区にお住まいのさぶちゃん、12歳の日本猫の男の子です。

 

現在も継続中の在宅緩和ケアについて書かせていただきます。

さぶちゃん1.png

 

今までの経緯

2023年12月に左頬からの排膿を認めてかかりつけの動物病院に通院したところ、その違和感から検査に踏み込み、扁平上皮癌と診断されました。

 

その状況から、内服薬での緩和治療とされていましたが、2024年2月を迎えると徐々に食欲が下がり、内服薬を受け付けてくれなくなりました。

 

もともとドライフードを好んでいましたが、この時はすでにチュールしか食べてもらえず、それの量も減ってしまっていました。

 

もう通院させるのは厳しいと判断され、2024年2月13日に当院までご連絡をいただきました。

 

 

初診(診察1日目)

お伺いすると、猫のさぶちゃんはリビングで伏せており、手をぴんと伸ばしたまま、終始じっとしていて動きませんでした。

 

目が開かないほどの左頬の腫脹もあり、毛並みもパサパサ、脱水も著しい状況でした。

 

過去の血液検査結果、かかりつけ動物病院での処方歴など、お母さんがお持ちだった全てのデータを見させていただき、現在までにどんなことがあり、何をされていたのかなどについて整理させていただきました。

 

血液検査結果では、腎臓や肝臓などに異常所見はなく、栄養状態なども含めて特記すべき所見は認めませんでした。

 

腫瘍疾患を抱えていて、特に肝臓転移や腹腔内腫瘤による障害などを伴わない場合には、血液検査結果がキレイなことが多いです。

 

そのため、肝臓や腎臓の機能は正常に残っていることから、現在の状態をサポートしてあげ、自力でご飯を食べたり、お水を飲んだりできるようになれれば、体を維持できることが期待できます。

 

お母さんのお話によると、まだ歩いて水を飲みに行っているが、全然飲めていないように感じるとのことがあり、おそらく扁平上皮癌によって、舌をうまく動かせていない可能性を疑いました。

 

食欲がないのも、痛みと口を動かすことが辛いのではないかと疑いました。

 

排便も、食欲の低下とともに徐々に少なくなり、ころっとした硬いものが少しでた程度とのことでした。

 

おしっこは出ていないとのことで、腎臓の問題で尿の生成ができていない、いわゆる腎不全の最終段階にある無尿期ではなく、単純に水が飲めていないことで、体内にある少量の水分をうまく運用して生命維持をしている可能性を疑いました。

 

そして、診察開始の少し前に吐血のような症状があり、結構な量の血が出ていたこともあってか、舌色はかなり白く、出血性の貧血を伴っている様子でした。

 

今の状態に出血が重なったこともあり、さぶちゃんはぐったりしていたと考えました。

 

状態から、同日に検査で負担をかけることは避けた方がいいと考え、今までのデータを持って在宅緩和ケアプランを組み立てていくこととし、脱水補正ではなく投薬を目的とした皮下点滴を1日2回実施してもらうこととしました。

 

在宅緩和ケアプランを組む上で大切なことは、病状だけでなく、この犬猫と暮らすご家族様の環境などをすることです。

 

具体的には、生活環境や家族構成、誰がペットの看護や介護に協力してくれるのか、その人たちの日常のスケジュールなどです。

 

猫のさぶちゃんでは、まずは皮下点滴をご自宅で実施していただくために、皮下点滴のトレーニングをしていただきました。

 

1つ1つの手順を一緒に、ゆっくりと指導させていただきますので、初めての方でもご自宅で、家族内で皮下点滴を実施できるようになります。

 

道具をお渡しし、次回診察を3日後としました。

 

薬の効果がどこまで出るかにもよりますが、状態が悪くなってから内服薬がうまく飲ませられていなかったことを考慮すれば、少し状態が上がってくることが期待できると考えました。

 

再診(診察4日目)

 

そこには、元気さを取り戻したさぶちゃんがいました。

 

さぶちゃん2.png

 

本当にびっくりするくらいまで状態が上がっており、遊んでって言わんばかりに猫じゃらしのおもちゃを持ってきては、戯れてくれていました。

 

ふらつきも強く、お水も飲めていなさそうだった初診の時とは打って変わり、動きも俊敏にあり、ジャンプまでするようになったとのことでした。

 

水もちゃんと飲めているようで、体重も増え、毛並みもだいぶ改善しており、もう見た目が別の猫ちゃんのようでした。

 

ご飯もチュールだけでなくウェットフードを食べてくれるようにあり、少し軟便が出ましたが、その後良便に戻りました。

 

さぶちゃん3.png

 

在宅緩和ケアの可能性

私たちが得意とする「犬猫の在宅緩和ケア」では、末期症状だった犬猫の状態を少しでも楽にしてあげることで、体の不自由左から諦めていた行動を、犬猫たちの意思によってまた時間を与えられる可能性があります。

 

また、緩和ケアは治療ではないため、延命かどうかの問いには答えられません。

 

しかし、少しでも楽に余生を過ごさせてあげたいと考えた場合、緩和ケアは最良の選択肢になりうると考えています。

 

犬猫は言葉を話せないため、送られてくるサインをどう受け取り、どう判断していくかの全ては、ご家族様次第です。

 

最後の時間を、できる限り家の中で過ごさせてあげたいとお考えの場合には、在宅緩和ケアをお勧めします。

 

ご自宅の地域まで往診で来てもらえる動物病院、または往診専門動物病院があるかどうかを、事前に調べておきましょう。

 

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