皆さんは、ペットにも緩和ケアがあることをご存知でしょうか。
当院は犬猫専門であるため、ここでは犬猫の在宅切り替えのタイミングについてお話しさせていただきます。
大きく3パターンに分類されます。
1.がん(腫瘍)、腎臓病や心臓病などの慢性疾患の病末期
一つ目は、病末期などでもう通院ができないとされた時です。
当院では、このステージでの往診相談を受けることが最も多いです。
しかし、往診と救急は相性がとても悪いため、すぐにお伺いすることが難しい場合があります。
今日からぐったりしたので急ぎ来て欲しい、というご要望にお応えできる日もありますが、基本的にはご予約の電話またはメールをいただいてから翌日以降になることが多いです。
そのため、ガクッと体調が下がり切ってしまう前にご相談いただくことをお勧めします。
持病とその時点での状態や、血液検査結果などのデータを参考に、今後起こりうる症状についてお伝えし、その時にどんなアクションを取ればいいのかなど、事前にご説明した上で、各種資材や医薬品などを、ご自宅に準備していきます。
また、ご家族様の心が、愛犬、愛猫の旅立ちを受け入れるためにも時間が必要です。
日々生じる愛犬、愛猫の変化を徐々に受け入れながら、今がどんな状態なのかをご説明させていただき、少しずつ理解を広げていきましょう。
2.余生を見据えての在宅緩和ケア切り替え(診断後)
二つ目は、通常の動物病院診断である程度の診断がつき、治療ではなく緩和ケアを実施してあげたいという意向のもと、往診での在宅緩和ケアを希望される時です。
この選択をされるご家族様の特徴としては、先代の愛犬、愛猫での経験がある方、そしてペットが腫瘍(がん)を患ってしまい、抗がん剤などの積極的な治療ではなく緩和ケアを希望したい方がほとんどです。
「最後まで動物病院に通院させた結果、その頻繁な通院によるストレスで、逆にかわいそうな思いをさせてしまった。」
「先代ペットの時に、良かれと思って選択した抗がん剤でぐったりしてしまい、そのまま旅立たせてしまった。朝は元気だったのに。」
「腎臓病(腎不全など)で頻繁に皮下点滴と血液検査で通院させた結果、もう通院は厳しいとなった時に、最後の数日間をどう過ごしたらいいのかを教えてもらえなかった。」
このように、先代ペットで抱えたトラウマを背景に、この選択をされる方が多いです。
もちろん、初代の犬猫だったとしても、ご家族様の意向で積極的な治療ではなく、穏やかに苦しみ少ない時間を過ごさせてあげたいと希望される場合もあります。
抗がん剤は強い味方になることもあれば、抗がん剤の投与を機にぐったりしてしまい、朝までお散歩に行くこともできたわんちゃんが、キャットタワーにも登れた猫ちゃんが、動物病院から帰宅してまもなく動けなくなってしまった、ということは十分に起こり得ます。
とはいえ、抗がん剤は腫瘍細胞を叩いて命を伸ばすためには必須アイテムだと思っていますので、もし積極的にがん治療を希望される場合には、かかりつけの動物病院でがん治療を開始するのではなく、腫瘍専門の動物病院を探して相談することを、本当に強くお勧めします。
また、腎臓病は慢性疾患であり、定期的な血液検査、そして腎臓病のステージにもよりますが内服薬の用量や種類調整、皮下点滴の頻度や1回量の調整などが必要です。
皮下点滴も、本来であれば1日1回必要だとしても、毎日通院させるには負担だというご家族様の意向を見て、獣医師から3日に1回でいいですよ、といった話が出てしまいがちですが、それは対策次第で家族にもペットにも優しい医療プランに変更が可能です。
なお、慢性腎臓病で必要な検査、処置、処方などを含めたプランのすべては、ご自宅で実施することができます。
心臓病、腎臓病、肝臓病やてんかんなどの脳神経系の疾患などが該当する慢性疾患や、積極的な治療を望まないリンパ腫や肥満細胞腫、肝臓がん、腎臓がん、乳がんなどのがん(腫瘍)症例であれば、当院であれば、基本的に全症例で在宅に切り替えることが可能です。
3.通院していなかった犬猫の高齢期
三つ目は、元々動物病院が苦手で通院させることができていなかった症例です。
主に、猫ちゃんがこの三つ目に該当します。
最後に通院したのは避妊去勢手術をした子猫の時であり、以降通院が本当に苦手だったことから、ずっと動物病院と距離をとってしまい、結果高齢期になって具合が悪くなってきたことを機に、往診専門動物病院を探して連絡をいただく、というパターンです。
ペットも人と同じように年を取りますが、平均寿命から考えれば、人より早く体の中は年を取っていくと考えてあげましょう。
「食欲がなくなっても、いつもなら3日くらいで少しずつ食べ出すのに、今回は1週間経っても食べてくれない。」
「元気がないなぁとは思っていたが、みるみるうちに動けなくなってしまった。」
「元気ではあるし、ご飯もよく食べるけど、なんとなく痩せてきたような気がする。」
まだまだこのカテゴリに該当する症例の主訴はありますが、「成功経験からご家族様の判断で様子見をした結果さらに状態が悪化している」、ということがよく起こりうるのが、犬猫の高齢期です。
小型犬、猫であれば、ざっくりと10歳を基準に考えてあげる、と言うキーワードだけ覚えておきましょう。
基本的には、体力のある時期であれば、体調不良が起きたとして、人と同じように放っておいても回復するだろうと考えています。
しかし、中には鼻が詰まってしまい食欲が戻らないなど、体調を下げている要因を取りのぞかないとダメな場合にもあったりします。
人との違いは、「食べて」と言っても食べてくれない、ということです。
体調不良が病気を作ってしまうと言うことが犬猫ではよく起こり得ますので、ご家族様の判断だけでなく、必ず獣医師の判断を仰ぐようにしましょう。
まとめ
今回は在宅医療への切り替えタイミングについて書かせていただきました。
三つ目に関しては、動物病院への通院からの切り替えというよりは、民間療法からの切り替えというものが近いと思います。
犬猫は自分で医療を選択することができません。
ご家族様が、愛犬、愛猫の性格をしっかりと把握した上で、余生をどのように過ごさせてあげたいのかを決めてあげましょう。
専門的な知見は獣医師からもらうことで、より具体的に想像できるようになると思います。
その過程の中で、往診切り替えを検討している場合には、事前相談をお勧めします。
往診は獣医師と愛玩動物看護師などの看護スタッフがペアでご自宅にお伺いし、現状を把握することと、今後起こりうる変化に対して、何が起きたらどうするのか、などを組み立てていくことが可能です。
体調が安定しているうちに、お早めに在宅医療の相談をしましょう。
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