今回は、前回に引き続き、左鼻腔内腫瘍を発症した猫ちゃんのお話です。
前回のブログはこちらからどうぞ!
・がんになった猫の在宅緩和ケアと看取り(腫瘍/癌(がん)/ペット往診)1-4
がん治療といっても多種多様であり、さらにはターミナルケアに関しては、ご家族様や犬猫の状況を考慮しなければいけないため、それはもう無数の形があるといっても過言ではないです。
だからこそ、全てがオリジナルであり、その子その子の性格や体調、取り巻く生活環境と登場人物と協力体制などを細かく把握する必要があります。
それでは、実際の往診当日から初診までの流れを書かせていただきます。
診察前準備(初診前)
初診時は、獣医師1人と動物看護師2人でお伺いしました。
初診の時は、できる限り人数を多くし、1人でも多く状況把握と飼い主様のマインドを共有しておくことが必要です。話している飼い主様の仕草や言葉の詰まり、早さやトーンなど、今の精神状態を知るキーポイントは診療現場にたくさん溢れています。
ちなみに、お伺いする前に必要そうなものを事前に準備しなければいけません。
そのため、電話問診は最初の超重要箇所ですので、当院としても気を引き締めて応対させていただいております。
今回は、前回予約までの流れとして書かせていただいた内容から察するに、左鼻腔内腺癌の末期+肺転移と判断し、準備を行なっています。
持ち込むべきボンベは小型ではなく中型サイズであり、もしかすると呼吸が途中で安定しなくなる可能性も大いに考えられるため、診察中に酸素流量最大の10L/分で使用することも想定できました。
初診時
お伺いすると、意外と人馴れしている猫ちゃんで、擦り寄ってきてはくれなかったんですが、挨拶に来てくれました。
左鼻からは鼻血を伴う鼻水が出ており、ズピーズピーといった音をずっと鳴らしていました。
まずは問診です。
往診の問診、特にターミナルケアでは、この問診という聞き取りの時間を最大限取っていきます。
なぜご家族様が往診を選択したのか。
そこには、いろんな出来事や過去のトラウマ、もっとやってあげたいけど猫ちゃん自体が望まないということを受け入れなければいけないという葛藤、そして、今まで通院で診てもらっていた動物病院の獣医師からの突き放しなど、いろんな思いがあります。
できることに限りがあるのが、ターミナルケアです。
しかし、それは医療側面の問題であり、逆に日常生活や猫ちゃんとの関わり方などについては、かなり大きく広がっていきますので、実際には限りがあると感じている余裕はないと思います。
ご飯ひとつにしても、食べてくれないのであればそこで諦めるのか、はたまた食べてくれそうなものを血眼になって探し出すのか。
粗相が始まったら、おむつにするのか環境自体を変えてあげるのか。
排尿排便がうまくできなくなった場合に、圧迫排尿や摘便などはどうするべきかなど、たくさんの日常問題を一挙に解決していきます。
それが、往診です。
状況から考えて、最後の血液検査から1週間以上経過してしまっていることもあり、まずは血液検査、できそうであれば超音波検査で胸部・腹部を一通り見てあげたいと考えました。
ただ、鼻が詰まっていることで容易に呼吸が乱れることが懸念されている中で、さらに肺転移までも疑われている状況で、どこまで検査してあげるべきなのかという論点があるため、メリットとデメリットを説明した上で、ご家族様に決めていただき、結果実施となりました。
今後の方針を組む上で、都度状態に合わせて変化させていくことは前提としても、やはり現状を把握することは重要であると考えています。
貧血が一気に進行していたことを見逃し、皮下点滴の輸液量を前回のデータを参考に算出した結果、皮下点滴後に呼吸が悪化しまった、となっては元も子もありません。
胸水や腹水の貯留状況、消化管(胃腸など)につまりはなさそうか、蠕動運動はできているのかなども、食事量や食事間隔などの参考になります。
呼吸状態が安定できるように、酸素化を万全に行い、検査中も最大量の酸素が終始確保できる環境で臨みました。
通常だと、小型酸素ボンベの持ち込みなのですが、電話での事前問診で呼吸状態が悪いことが強く懸念できたため、持ち込むことができました。
いよいよ検査です。
まずは持ち込んだ体重計で、今の猫ちゃんの体重を測定します。
1週間前で4.3kgあった体重が、本日は4.3kgと、まさかのキープ!すごいぞ、、、!^^
酸素キャップを設置し、まずは酸素流量5L/分で設定し、いざ保定です。
保定されるのは嫌いのようで、早速呼吸が早くなり、鼻詰まりもあるせいで少し開口を始めました。
この開口呼吸は、緊急時のものとは違い、ただ鼻詰まりに対して代償的に口呼吸をしたまでと考えました。
とはいえ、酸素流量を一気に10L/分に変更です。
すると、呼吸が安定したのか、それにより不安が少し取れたのか、全体的に安定していきました。
血管が細くなっていたため少し時間がかかりましたが、無事に採血、超音波検査を完了させることができました。
採血した感覚として、血液がサラサラしており、1週間ほど前の血液検査データではなかった貧血が起きていると判断できましたので、本日の処置として、皮下点滴の輸液量を当初20ml/kgで設定していたのですが、10ml/kgまで落とし、43mlとさせていただきました。
その中に、今の猫ちゃんの状況に適した8種類の注射薬(抗炎症剤や抗生剤、胃薬や吐き気止めなど)を混ぜて皮下点滴し、終了です。
処置が終わると、「終わったよ〜!ご飯出して〜!」と言わんばかりにお母さんたちに催促を始め、私たちの目の前でガツガツ食べている姿を見せてくれました。
検査結果は即日〜1週間程度で出揃いますので、都度そのデータとその時の体調に合わせた処置プランを組んでいきます。
次回の診察は翌日であり、予定としては翌日に皮下点滴指導を入れて、翌々日に再度指導と確認を行い、医薬品のお渡し、さらに2日後にフィードバックと状況確認のための往診としました。
3日間は集中的に往診することとなったため、お母さんもお姉さんも、最初のご挨拶の時の緊張した面持ちから変わり、優しい安堵の表情となりました。
そして最後に、すでに設置されていた家にある酸素発生装置の運用方法についてです。
初診時の酸素運用説明
機械の裏側をチェックすると、酸素流量を3L/分に設定すると酸素濃度80%の風が出てくると記載がありました。
酸素ハウスは横90cm×奥行60cm×高さ60cmと、俗にいうMサイズくらいでした。
当院では、酸素ハウス形状として、その中に犬猫を生活させながらトイレの処理や処置などを行うことを視野に入れて、より運用しやすいものを推奨しております。
ちなみによくあるアクリル板でできたかっこいいものは、確かにかっこいいことと、全面が透明なので閉塞感が少ないこと、そして酸素ハウスの上に物が置けるというのがメリットであると考えています。
今回の運用では、3L/分の酸素流量でこのサイズの酸素ハウスを運用することは難しく、また猫ちゃんも酸素ハウスを自由に出入りさせてあげられるよう半分開きっぱなしにしていることもあり、せめて5L/分は必要であり、かつ5L/分で80%以上の酸素濃度が出るものでなければ、ほとんど意味がないです。
ハウスサイズは終の住処になることも視野に入れ、酸素ハウスの中にご飯やトイレ、寝床を設置することも考えれば、このサイズの猫ちゃんであれば最適であると考えます。
変更および追加点は以下です。
・酸素発生装置を1台追加(5L/分の酸素流量で80%以上を確保できるもの)
・ボンベ設置(10L/分でほぼ100%を確保できるもの)
酸素関連機器が届くまでの間は今ある酸素発生装置の8L/分(45%以上)で酸素ハウス内に噴射し、呼吸が苦しそうになったら、3L/分(80%以上)に切り替えて鼻先で嗅がせてあげるというプランにしました。
状態も安定しているため、翌日に届く酸素関連機器を待っていられると判断したため、上記のようなプランとしましたが、もし厳しいと判断した場合には、わんにゃん保健室の方で酸素発生装置(10L/分、80%以上)を準備しています。
すぐに準備しない理由は、音の問題です。(結構うるさいんです。。。)
猫ちゃんにとって、あまりうるさい音はストレスになってしまいますので、耳がかなり遠くなっている場合を除き、基本は別会社の酸素発生装置を依頼設置していただいております。
(・・・東京都内は設置可能で、おそらく近郊までは、、、という予想です。予想だけですみません。)
以上で初診が終了です。
入室から退室までで、この日はおおよそ2時間でした。1時間は初回問診、30分が処置時間、30分が今日から明日にかけてのお話と今後想定されるタラレバと対策でした。
今回のまとめ
今回は、犬猫の往診でのターミナルケアにおける初診の雰囲気を伝えられるよう、実際の症例を使ってご説明させていただきました。
命の現場には、緊張感はつきものであり、時としてその場で見送ることもあります。
だからこそ、ご家族様の言葉に誠意を持って耳を傾けることと、先入観を一旦外す努力が重要です。
そうすることで、ご家族様の求めている最後の形を想像でき、医療面及び生活面でアドバイスを交えて方針決定が行えます。
次回は、急変時はどうすべきなのかの意思決定について書かせていただきます。
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