こんにちは!
今回は重度の膵炎になった大型犬のお話です。
膵臓は、胃の下のあたりにある臓器で、インスリンを出したり、消化酵素を出したりする重要な臓器です。膵炎というのは、その消化酵素で膵臓自身を溶かしてしまう疾患で、慢性膵炎と急性膵炎に分けられます。急性膵炎の場合、重症度によっては合併症により致命的になってしまうとても怖い病気です。
今回ご紹介するのは、かなり重度の膵炎で合併症の一つである血栓もできている可能性のある大型犬の治療経過です。
大型犬は、本当に体調が悪いと通院できません(ゴールデンレトリバー/東京中央区/急な嘔吐)
今回の症例は、東京中央区在住の9歳のゴールデンレトリバーのマロンちゃんです。
マロンちゃんのお母さんからお電話をいただき、早朝から何度も吐いていて、身体が熱くなって熱がありそう、そして、ぐったりしていて歩けないため、往診をお願いしたいとのことでした。
状況をもう少しお伺いすると、昨日の夜までは普段通り生活していて、1週間前にもかかりつけの動物病院にいき、血液検査を実施していました。その結果、肝数値がやや高いことと、年齢からか、中性脂肪も少し高めという数値だったが、担当の獣医師からは元気なので様子見と言われたばかりの出来事でした。
昨日までしっかりご飯を食べていたし、急なことで動物病院に以降にも抱き上げられないし、どうしていいのかという緊急のお電話でした。
往診は救急車ではないため、基本的には緊急との相性は悪いです。この場合、どうにか頑張って動物病院に駆け込むことを推奨しているのですが、この日はたまたま近くにおり、30分以内に到着することが可能だと見込めたため、すぐにお伺いさせていただくことにしました。
お電話である程度問診させて頂いていたので、先に身体検査と超音波検査で緊急度を見てみることとしました。
身体検査では、体温40.5度、不整脈、激しい脱水が見られましたが、チアノーゼは見られなかったので、ひとまず身体の酸素濃度は明らかな低下はしていないと判断しました。
しかし、呼吸状態は明らかに悪いので、持ち込んだ酸素ボンベを開放し、顔の前で流し続けながら、診察を進めていきました。
往診専門動物病院わんにゃん保健室では、診療時に呼吸状態の悪化を常に想定し、酸素ボンベを常備しています。呼吸状態が悪い犬猫の診察では、高濃度かつ高い流量の酸素を嗅がせながら検査・処置を行うことで、少しでもペットにとって負担にならないように心がけています。
超音波検査(エコー検査)では、胸水を確認しませんでしたが、少量の腹水、そしてお腹の中で強い炎症を示唆する所見が見られました。
また、お腹を抑えると強い痛みが認められ、特に膵臓周辺の脂肪で強い炎症像が見られたことから、膵炎の可能性を考えて詳しい問診に入らせていただくこととしました。
マロンちゃんはもともととても元気で、大きな病気もなく、よく食べる子でした。
昨日の夜まではいつも通り過ごしてくれていたそうですが、明け方に嘔吐が始まり、そこからぐったりし始めて、私たち往診専門動物病院わんにゃん保健室にご連絡を頂いたとのことでした。
それまではなにも症状がなかったため、いつもの動物病院で実施した血液検査結果もあり、いつも通りの生活を送っていたのにと、お母さんはとても悔やんでいました。
検査結果を見てみると、検査項目をかなり絞っていました。
見たい項目が除外されていたので、残念ですが、膵炎の可能性が高い!と言い切れる自信を持てないまま、診療を進めていきました。
おそらく、動物病院では費用面を下げたいという思いから、項目数を最低限に絞り、血液検査をより多くの飼い主様に受けてもらいたいという院長の思いを、多くの動物病院の検査結果を拝見するときに感じています。
費用面からすればもちろん最小限であることは正しいと思いますが、シニア期(高齢期)や持病を抱えたあとは、もしかしたら必要かもしれないって項目を全て網羅して一緒に検査項目として1回の採血で見てあげた方がペットのためなのかなって、個人的には思っています。
お母さんにご同意の上、再度血液を採取し、幅広く検査を行うこととしました。
もし急性膵炎だとしてら、最も怖いのが、広い範囲で炎症が起こることで、全身での炎症反応になり、血液が固まり易くなり血栓が出来てしまったり、肺に水が溜まってしまうような合併症です。これらの合併症はすぐに致命的になってしまうことも少なくありません。
マロンちゃんの場合、超音波検査でかなり強い炎症所見が見られましたので、動物病院での入院治療もお話しさせて頂き、ご相談しましたが、連れて行くことができないという物理的な要因もありますが、致命的な状態ならお家で看取りたいというご家族のご希望もあり、お家での出来る限りの治療をさせて頂くこととしました。
具体的には、痛み止めや吐き気止め、点滴や血栓を溶かすお薬、そして炎症を抑えるお薬を注射し、皮下点滴を行いました。
同日の夜もお伺いする予定を組み、午前の治療は終了としました。
夜の診察では状態改善
夜の診察では、午前中より少し顔つきが良くなって、お水を飲めるようになりました。
また、体温も38度まで下がっており、本人も楽になった様子でした。
血液検査では、白血球の上昇、炎症の数値の上昇、そして膵臓の数値の上昇が認められたため、急性膵炎と判断し、まずは1週間集中治療を行っていくこととしました。
血液検査の結果、膵炎は併発疾患であり、原発は甲状腺機能低下症であることが疑われました。
甲状腺機能が低下したため、中性脂肪の値が上昇し、その結果膵炎を発症したというストーリーです。
大型犬、特にぽっちゃりした体型の子で、このストーリーは起こりやすいものですので、大型犬と暮らしているご家族様は日頃から検査してあげましょう。
その後、集中的な治療を続けた結果、1週間後には自力でご飯を食べてくれるまでになり、甲状腺のお薬だけでなく他のお薬も、この時から少しずつ内服薬への切り替えを行なっていきました。
食欲がいつもほど出ていない中でしたが、マロンちゃんは頑張ってお薬を飲んでくれ、白血球や炎症の数値、また膵臓の数値もほぼ正常値まで下がってきてくれていました。
犬の膵炎の原因としては、およそ90%が原因不明と言われていますが、高脂血症や肥満、脂肪分の多い食事や人の食べ物を与えることが原因にもなります。
そこで、膵炎で食欲が落ちている時には脂肪分の少ないササミを与えることも多いです。
今回のマロンちゃんの膵炎は、おそらく甲状腺機能低下症が原因かと思いますが、もしかすると肥満も要因の一つだったかもしれません。
また、マロンちゃんの場合は急性膵炎で、急激な悪化が認められましたが、急性膵炎を何度か起こしていたり、膵臓に負担がかかるような高脂肪のご飯を食べていると、慢性化してしまい慢性膵炎となって、膵臓の機能が落ちてしまいます。
慢性膵炎のサインとしては、何となく食欲がなかったり、元気がない日があったり、といった軽微な症状なので見逃しがちですが、そういったサインが出た場合、一度動物病院に相談してみてください。
マロンちゃんは再燃に注意しながら少しずつ治療強度を弱めていき、今も治療を頑張ってくれています。
犬の急性膵炎は名前の通り、急に発症し、治療しなければ多くは急激に悪化していってしまいます。
それを防ぐためにも、血液検査の頻度を増やし(3ヶ月に1回程度の幅広い血液検査など)、肝臓への負担を考えて低脂肪食にしたり、人のご飯を与えないようにしたりチェックしましょう。
今回のマロンちゃんのように、わんちゃんが大きくて動物病院に連れていけない、健康診断をしたいけれどわんちゃん猫ちゃんが待ち時間が苦手、など動物病院に連れて行くことができない理由は様々だと思います。
往診専門動物病院わんにゃん保健室ではお家を診察室として使わせて頂きますので、待ち時間はありません。
健康診断なども実施していますので、往診専門動物病院わんにゃん保健室にいつでもお気軽にご相談ください。
過去に犬の膵炎関連の記事を書いていますので、気になる方は是非読んでみてください!
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