【2020年9月15日 内容更新】
こんにちわ!
往診専門動物病院わんにゃん保健室 往診獣医師の江本宏平です。
今日は犬猫の洋服などを扱っているお店に往診がてらよったのですが、クリスマスを終え、ペットグッズ屋さんの繁忙期は終わったようでしたが、今度は年末に向けた大量購入を求める飼い主様たちでごった返していました。
往診専門動物病院わんにゃん保健室では、東京中央区などを中心に東京23区全域まで動物病院へ通院できない犬猫に獣医療を届けています。
今日は、東京中央区の慢性腎臓病の猫ちゃんが4件、東京台東区の皮膚病の猫ちゃん1件、東京港区の猫ちゃん1件と、猫ちゃんオンパレードでした。
そんな中ですが、今日はわんちゃんの病気について書いていきます。
今日の症例紹介は、犬の膵炎です。
高齢犬の膵炎(ミニチュア・シュナウザー/東京中央区/高齢犬)
みなさん、膵炎という病気、聞いたことありますか??たまに、芸能人の方などでニュースになったりすることもありますよね。
膵炎とは、膵臓の炎症で、かなりの激痛を伴い、嘔吐や食欲不振、下痢といった症状が主な症状です。
こういった症状は、わんちゃんに多く見られ、猫ちゃんでは膵炎の症状は顕著に認めることはかなり少ないです。
そんな膵炎と頑張って戦った東京中央区在住のマロンちゃんのお話です。
高齢犬のマロンちゃん(15歳)は、3日ほど前から食欲が無くなってしまい、その次の日には立てなくなってしまったとのことで、お電話を頂きました。また、2日間おしっこも出ていないとのことでしたので、緊急性を感じ、当日にお伺いさせて頂きました。
初診時
お伺いしたときには、ミニチュア・シュナウザーのマロンちゃんは廊下の床でハアハアと少し呼吸がしんどそうで、ぐったりした様子でしたが、私たちが来たということで何かを感じ取って、上半身だけ起き上がっていました。
まずは、詳しくお話をお伺いすることとしました。
マロンちゃんは特に既往歴はなく、2年ほど前から散歩を嫌がるようになったそうで、今考えるとその時から後ろ足が痛かったのかな、ということでしたが、食欲に関しては全く問題がなく、5日ほど前から食欲が徐々に落ちていき、3日前から完全に食べなくなってしまったということでした。後ろ足は、以前から徐々に弱ってきており、1日前から急に完全に立てなくなってしまったとのことでした。
飼い主様のお話からすると、足についてはヘルニアや、進行速度と病態から脊髄軟化症など、複数の疾患が考えられましたが、食欲がなくなってしまったのはたくさんの原因が考えられましたので、まずは身体検査、その後全身状態を見るために血液検査を行うということで、ご家族様と相談したところ、触ると怒ってしまうため心配されていましたが、その点に関しては、スタッフで保定をするので大丈夫です、ということで、血液検査まで実施することとなりました。
食欲の低下など、日常から見られてもおかしくはない症状から、実は重たい病気だったということは多くあります。
見分け方は、症状の継続期間と回復スピードです。
経験的にですが、大体の一過性の食欲低下、嘔吐、下痢であれば3日程度で回復傾向を迎え1週間もしないで元に戻るということが多いように感じます
しかし、今回のように重たい病態に落ち陥ってしまうこともありますので、飼い主様で判断せずに、必ずかかりつけの獣医師に判断を仰ぎましょう。
身体検査では、後肢の麻痺(浅部痛覚の消失など)、腹部圧痛、腰部圧痛が認められました。その中でも特におなかの痛みが激しく、膵炎などの消化器系の疾患が疑われました。
膵炎の場合に、腹膜炎を併発している可能性が高くあります。
その場合には、反跳痛があるかどうかを調べていきます。
通常の腹痛であれば、お腹を押すと痛さを感じますが、反跳痛では押している場所を急にパッと離した時に腹膜が振動し、その時に強い痛みを発します。
ゆっくり押してパッと離す、ということを実施します。
もちろん、お腹を押している時痛みを感じていますので、飼い主様自身でチェックするのは怖いかと思われますので、一応参考までに書かせていただきました。
血液検査は顕著な体調不良があったためか、すんなりとさせてくれました。その時に大量におしっこをしてくれたので、まずはおしっこが出ていることに一安心です。
この日は、その後水分摂取量も不足していたので点滴、痛み止め、吐き気止め、胃薬などの注射を行い、治療終了とし、血液検査結果が出揃い次第治療方針を決めていくということになりました。
処置内容
ミニチュア・シュナウザーのマロンちゃんの血液検査結果では、身体の中でかなり強い炎症反応と、膵臓の酵素の上昇、腎臓の数値の上昇が見られました。
血液検査、身体検査所見のみから考えると、高齢犬のマロンちゃんは全身性炎症反応症候群という、全身で強い炎症が起こっているかなり危険な状態でした。
また、膵臓の酵素が上昇していることから、膵炎と判明しました。おそらく、今回の食欲不振や下痢は膵炎から来ていると考えられ、後肢については整形疾患を考えていく必要があるかと考えられましたが、緊急度から考えるとまずは膵炎の炎症を止めることが先決ということで、膵炎の治療をメインに行っていくこととなりました。
ここで、膵炎について少しご説明していきます。
そもそも膵炎とはどういった病気なのでしょう??
膵臓はリパーゼやトリプシン等という消化酵素を消化管内に分泌して、消化管内で活性化し、消化を助ける役割をしています。それが何らかの原因によって膵臓内で活性化してしまい、膵臓自体を溶かしていってしまう病気です。膵臓が酵素によって溶かされることで、強い炎症反応がそこで引き起こされます。この炎症反応が膵臓だけでなく、肝臓や腹膜にも波及してしまうこともあり、かなりの痛みを伴います。
しかし、膵炎にも2種類あり、慢性膵炎と急性膵炎があります。
先ほどお話したのは急性膵炎のお話で、急性膵炎の場合、症状は急激に現れ、致命的になってしまうこともあります。一方、慢性膵炎は、長期間にわたって何となく調子が悪い感じがあったり、あるいは血液検査の数値だけが高い、という子もいます。慢性膵炎の場合は急激な悪化がなければ基本的には大きな問題になることは少なく、食事療法などの治療を行っていきます。
しかし、急性膵炎ではそんな悠長なことは言ってられません。
治療法としては、まず強い吐き気と強い痛みがあるため、それらを抑えるお薬を使用していきます。また、膵臓が虚血気味になっていたり、嘔吐下痢で脱水傾向になってしまうため、点滴も必要になってきます。最近であれば炎症を抑える、5日間連続で使うお薬も出ています。
人の方であれば、膵炎の場合は絶食が推奨されていますが、獣医療では吐かなくなったら低脂肪食を少しずつ食べさせて、膵臓に栄養を供給して回復を促す、という方法がとられています。ちなみに猫ちゃんでは低脂肪食でなくとも、通常の食事で問題がないです。
根気よく対症療法を行って、炎症は自分の力で治るのを待つしかない、というのが膵炎です。
では予防はどうなのか?
完全に予防することは出来ませんが、脂肪分の多い食事を避ける、暴食を避ける、高脂血症がないか定期健診を実施する、などが予防になってきます。
ここで一番大切なのが、膵炎はかなり危険な病気というです。
膵炎の炎症が強ければ強いほど、体の中の様々な物質が働き、肺水腫や血栓症、敗血症などを引き起こし、致死的になってしまうことも少なくありません。
血栓が急に播種してしまい、身体中のいろんな血管を詰めてしまった場合や、または肺の血栓症などを起こしてしまった場合には、急な経過を遂げてしまい、最悪そのまま旅立ってしまうことを決して珍しくありません。
こういったことを防ぐためにも、定期的な健康診断と食事には気を付けてあげましょう。
話は逸れましたが、ミニチュア・シュナウザーのマロンちゃんの場合、対症療法を続けていくと少し食べてくれるようになりました。
そこで、すこし診察回数の間隔を空けるために、お家での皮下点滴を行っていただくこととなりました。2日ほどはお家にて皮下点滴を行っていただきましたが、次はおしっこが出なくなってしまったとのことでご連絡を頂きました。
超音波にて膀胱を確認すると、おしっこは溜まっていましたが、自分で出せていない様子でかなり苦しそうな様子がありましたので、導尿処置後、尿道カテーテルの設置を行いました。
この原因としては、おそらくヘルニアの進行によるものが考えられましたが、飼い主様は病院に連れて行くよりはお家で苦しくないように、痛くないように過ごさせてあげたい、というご希望でしたので、ヘルニアが進行して生活の質が落ちてしまう可能性もお伝えしたうえで、安静、という手段を選びました。おしっこが出たあとは、すごく穏やかな顔をしていて、すやすや眠ってしまいました。
しかし、その次の日、ミニチュア・シュナウザーのマロンちゃんは眠るように息を引き取っていきました。
おそらく膵炎による敗血症や強い炎症によるものを考えていますが、最期まで鎮痛剤をしっかりと使用できたおかげで、マロンちゃんは苦しまずに最期を過ごすことが出来ました。
このように、往診専門動物病院わんにゃん保健室では、お家でできる限り苦しみを取ってあげたい、積極的な治療は望んでいないが痛みは取ってほしい、という場合にもお家でできる処置をご相談させて頂きます。
通常、食欲不振、嘔吐、下痢を認めた場合に、いろんな可能性を疑って広く検査を行います。しかし、動物病院によっては、そこまで検査しないで対症療法としての内服薬をもらって様子を見てください、ということもあったり、または飼い主様から検査を拒否されてしまう場合など、検査を実施されないケースは多岐に渡ります。
今回のようなケースは決して珍しくはないことをご理解いただき、対症療法で様子を見ていくのではなく、しっかりとできるところまで検査をしてあげ、根拠を持って対症療法を行なっていくという方が、個人的にはおすすめです。
もちろん、費用がかかってくることですので絶対にとは言えませんが、そのためにも事前にペット保険を探して加入しておくことを推奨します。
往診では、疑わしい場合に最初の段階で血液検査を実施し、広く見させていただきます。その内容を持って処置方法を検討し、もし膵炎であれば、皮下点滴と鎮痛をメインとした治療プランを組んでいきます。
動物病院に連れていけない、という場合にもお家にて処置ができるので、わんちゃん猫ちゃんを無理に移動させる必要がありません。そして処置が終われば、すぐにいつもの環境に変えることが出来ます。
こういったお悩みをお持ちの方は、いつでも往診専門動物病院わんにゃん保健室までご連絡下さい。
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