今日はわんちゃん猫ちゃんで意外と多い、膵炎のお話です。
膵炎とき聞くと、皆さんはどのようなイメージがありますか?
もちろん、聞いたことはあるけどあんまりよく分からない、という方から、なったことある!という方までいらっしゃるかと思います。
よく耳にするのは急性膵炎だと思いますが、膵炎には急性膵炎と慢性膵炎があり、急性膵炎は死に至ることもあるほど危険な病気で、救急疾患に分類されます。一方慢性膵炎は、何となく調子が悪い日と良い日が交互に来たり、何となく食いつきが悪くなった気がする、というような微妙な変化が起こります。しかし、慢性膵炎も急に悪化することがあり、その場合に急性膵炎同様、命に関わります。
今回はそんな危険な膵炎になってしまったわんちゃんのお話です。
東京目黒区在住/15歳/ミニチュアダックスフンド/マロンちゃん
マロンちゃんとの出会いは、寒い日の中かかってきた1本のお電話でした。
東京目黒区は土地柄中規模な動物病院が立ち並んでいますが、歳を重ねてシニア期になった犬猫にとっても、なかなか通院だけでも大変になってきます。
マロンちゃんの場合も、かかりつけの動物病院はあるのですが、あまりに動かない状況と若干の震えを見て、ご家族様の心境としては、もう自宅で看取ってあげようと考えてのご連絡とのことでした。
往診における在宅緩和ケアでは、膵炎の場合に脱水補正と疼痛緩和をメインに行なっていきます。
検査結果上、もしまだ頑張れそうであれば、ご家族様とご相談の上、少量頻回での給餌を行なっていきます。
マロンちゃんの症状は、昨日から急に動かなくなり、嘔吐を繰り返していて全く食べなったことが目立ちました。消化器症状と元気食欲の急激な低下から、急性膵炎を視野に入れて、その日の夜にすぐに往診させて頂きました。
お家に入ると、お部屋のホットカーペットの上でマロンちゃんは横になってハアハアしていましたが、舌の色は悪くないようで少し安心しました。
お話を詳しくお伺いすると、マロンちゃんは数年前までは元気に歩いていてお散歩にも行っていたそうなのですが、ここ2年ほどあまり歩きたがらなくなり、最初は何とか予防薬などをもらいに動物病院に連れて行っていたそうなのですが、最近は全く歩いてくれず、体重的にも抱っこで外に連れ出すことは困難だったとのことでした。
昨日から急に変化が起こってしまったため、ご家族様も気持ちが追いつかず、動物病院にも連れて行けないし、何度ももうダメかもしれない、と思われたそうなのですが、ホームページから往診専門動物病院わんにゃん保健室を調べて頂き、お電話して下さり、私たちもマロンちゃんの元に来れて良かったです。
お話をお伺いしている間も、終始口をペロペロして、気持ち悪そうな様子のマロンちゃん。
かなり状態が悪そうなので、通常の胃腸炎ではなく、他の疾患を疑い、血液検査、お腹の超音波検査をお勧めしたところ、マロンちゃんの負担にならない範囲で、ということで身体検査、血液検査、超音波検査を行なっていくこととなりました。
まずは身体検査です。体温計で熱を測ると、39.8度と発熱が見られ、お腹を触ると力が入ることから、腹痛があることが分かりました。
粘膜の色は悪くはありませんが、昨日から何度も吐いてしまっていることから、少し脱水が見られました。
次は血液検査です。お腹を出来るだけ触らないように保定して、素早く採血を行い、横になったまま、お腹の超音波検査を実施しました。超音波検査では、胃腸炎の所見もありましたが、それよりも膵臓の周りで炎症が起こっている所見があり、膵炎が強く疑われました。
マロンちゃんは急性膵炎の可能性がかなり高いと判断されたので、急いで処置を行いました。
まずは急激な炎症を抑えるために、本来使用しすぎると膵炎発症のリスク因子になるとも言われていますが、全身で炎症が強く起こってしまい取り返しのつかない事態になることを防ぐために、ステロイド剤を使用し、点滴、吐き気止め、痛み止め、抗生剤を使用しました。
痛み止めは注射にて1日3回使用した方がよく効くため、注射薬を飼い主様にお渡しして、打てるようになるまで注射のご指導を行い、お家で注射をして頂くことになりました。
往診専門動物病院わんにゃん保健室ではこのように、お家で皮下点滴や注射を行なって頂くことがあり、出来るようになるまで私たち往診専門動物病院わんにゃん保健室の獣医療スタッフがやり方をお伝えさせて頂いています。
例えば腎不全の猫ちゃんで、お家で皮下点滴が必要な場合もいつでもご相談ください。
話が逸れてしまいましたが、マロンちゃんの処置は今日のところは以上として、次の日に悪化がないか確認するためにもう一度お伺いすることとなりました。
血液検査では白血球、炎症の数値がかなり高くなっており、膵臓の数値はまだ結果が出ていない状態でしたが、膵炎を強く疑う所見から、膵炎の治療を行なっていく方向です。
次の日お伺いすると、マロンちゃんの息遣いは少し良くなっていて、嘔吐もしていないとのことでした。
茹でたササミを少し食べたとのことでしたので、少し良くなっているようで安心しました。良化傾向なので、本日も同じ治療を行い鎮痛剤も引き続き使って頂くこととしました。
膵炎というのは、膵臓で強い炎症が起こってしまう病気ですが、根本的な治療法はありません。
点滴や吐き気どめ、鎮痛剤といった対症療法を行いながら、出来るだけ早期から低脂肪食を与えてもらうことが治療法になります。そのため、その子の体力面がとても大切になってきます。
しかし、膵炎の怖いところは一見元気になったように見えても身体の炎症物質が残っていると急変してしまうことがある、ということです。
マロンちゃんはその次の日には、低脂肪食の缶詰フードも食べてくれるようになったので、お家でも引き続き同じ治療を行なって頂くことにしていますが、経過観察にはかなり要注意しています。
現在もまだ治療を頑張ってくれていますが、ご飯はドライフードも食べてくれるようになってきて、そろそろもう一度血液検査を検討しているところです。
今回のように、急性膵炎で一気に状態が落ちてしまうというのは、わんちゃんではよく見られます。
特に人のご飯を欲しがる子や高脂血症の高齢犬、膵炎を併発しやすい疾患の子は注意が必要です。
高齢だけれど健診を行なっていない、病院に行けないから検診していない、という高齢犬、高齢猫がお家にいる場合は、往診専門動物病院わんにゃん保健室までご相談ください、お家で健康診断をさせて頂きます。
◆-----------------------------------◆