「血管肉腫」
この病気は、発覚してから本当に進行速度が早い病気に分類されます。
例えば月初に健康診断を行っていても、月半ばくらいに違和感を覚え、再度検査したところ脾臓に疑わしいものがあったり、胸水や腹水が貯留していたりすることがあります。
そのくらい、進行速度は早いんです。
大型犬の血管肉腫における在宅緩和ケアでは、主にかかりつけの動物病院である程度診断がついてからの在宅切り替え相談が多いです。
大型犬の場合、通院できるうちは通院で頑張るものの、抗がん剤を断念して治療ではない緩和ケアを希望したいと感じた頃、かかりつけの動物病院では在宅相談が難しいとされて、切り替えに踏み切るようです。
猫ちゃんの場合には、もともと通院ができない子が多いために早期からの在宅緩和ケアを希望される傾向が多い中で、わんちゃんだとかなり病末期からのターミナルケアで、在宅緩和ケアに切り替えられることが多いです。
では、大型犬ではどうでしょうか。
大型犬の場合には、まだ歩けるうちから在宅緩和ケアに切り替えることをお勧めしています。
なぜかというと、歩行が難しくなってきた段階で、通院を断念せざるを得ないタイミングが突然来てしまうからです。
事前にご連絡をいただいていれば、その時のことを想定したインフォームが可能であり、さらには対策を打つこともでき、いきなり始まる愛犬の介護、看病に対しても事前準備しておくことができます。
今回書かせていただく内容は、ラブラドールの陸くん12歳の初診です。
摘出した脾臓の病理検査結果から「血管肉腫」と診断を受け、2024年4月17日から在宅緩和ケアに切り替えました。
初診(診察1日目)
陸くんの家は、猫ちゃんもワンちゃんも一緒に暮らす、大家族でした。
大型犬もたくさんいて、先に天国にお引越ししたラブラドールの子達も、最後は腫瘍でした。
1頭は趾端メラノーマで、もう1頭は陸くんと同じ骨肉腫でした。
かかりつけの動物病院の担当獣医師は、本当に親身になって説明をしてくれたそうですが、最終的には抗がん剤をしないで、緩和ケアを選択されました。
腫瘍と診断された場合には、外科手術や放射線治療、抗がん剤や分子標的薬の説明を、まずは受けることと思います。
ただ、その説明を受けた後すぐに決断するのではなく、確かな知識を持ってから、改めてご家族様で話し合われることをお勧めします。
ご家族様として、愛犬、愛猫に残された時間を、どこで、どんな風に過ごさせてあげたいのか。
抗がん剤と一言で言っても、その効果や副反応は異なっており、うまくいっている時は劇的な回復を認めることもありますが、副反応のダメージを目にしたことがある方であれば、抗がん剤の怖さを知っていることと思います。
抗がん剤ではなく、もう痛みや吐き気など、生活している上での苦痛を少しでも軽減させながら、もう延命は望まないと考えたのであれば、緩和ケアに切り替えることも、また1つの選択です。
緩和ケアは決して逃げではなく、ペットにとって最良であると判断した、勇気ある覚悟の形です。
また、緩和ケアの中にも通院医療と往診医療(在宅医療)で、考え方やプランの組み立て方、指導の仕方なども異なってくると思われます。
例えば、当院の場合は在宅緩和ケアに特化した獣医療チームを編成しているため、家族の関係性や連携具合、実際の生活環境や家族の日常スケジュールなど、事細かにお伺いして、実施可能な在宅緩和プランを提案していきます。
最後までご家族様を1人にしない。
私たちが心がけている大切な信条です。
陸くんの初診時問診では、10日ほど前から運動量の低下はあるものの、もともとおっとりしている性格なこともあり、あまり変わらない印象とのことでした。
食欲は旺盛で、1日4回のご飯タイムも、毎回完食してくれるとのことでした。
体重が40kg以上ということもあり、薬もかなりの量になりました。
人間でも、これだけでお腹いっぱいになっちゃいそうな量です。
陸くんの場合には、1日4回のご飯タイムがあるので、そのタイミングを利用して、投薬タイミングを4回に分散させることで、1回の薬剤量を減らすことをご提案させていただきました。
この時実施した血液検査では、貧血はあるものの、1ヶ月前にかかりつけの動物病院で実施した結果よりもやや改善しており、超音波検査で腹水や胸水を認めなかったことから、出血自体が安定していることが伺えました。
今後のことのご説明
病気はいつか必ず進行し、身体機能がある時を境に、うまく働かなくなってきます。
食べても消化がうまくいかなくなったり、そもそも食べなくなったり。
立ち上がりたいのに、立ち上がれなくなったり。
そんな時に考えなければいけないのが、「介護」です。
介護問題は人間社会だけではなく、ペットの介護についても同様かそれ以上に、社会が目を当ててくれないという側面を加えれば、辛い悩みが出てきているかもしれません。
しかし、この「介護」、そして投薬などの「看護」にもやり方があります。
全部をオリジナルでこなせるのであれば、それはすごいことです。
でももし、心が苦しくなってきた時や、介護をしていて悩み事が出た時には、専門家に相談することは何も恥ずかしいことではないです。
向き合い方さえわかって仕舞えば、あとはそれを生活環境にどんな形で組み込んでいくか、ただそれだけです。
全部ができないことで自身を責めることが多くなるこの時期ですが、決して100点を目指さず、60点でもやり続けてあげることが大切です。
在宅緩和ケアのことでご不安がございましたら、家まで来てくれる往診専門動物病院に連絡をするか、東京、千葉、埼玉、神奈川であれば、私たち往診専門動物病院わんにゃん保健室がお伺いさせていただきます。
次は、陸くんの再診のご様子を書かせていただきます