こんにちは!
往診専門動物病院わんにゃん保健室 往診専門獣医師の江本宏平です。
犬猫の往診で出会う子たちの中には、腫瘍(癌)で苦しんでいるという場合が多くあります。
腫瘍性疾患の犬猫に対して、現在では外科手術、化学療法(抗癌剤など)、放射線療法などの選択肢がありますが、どれも動物通院への通院が必要なものがほとんどです。
抗癌剤療法を用いた場合には、犬猫の排泄物にも抗癌剤が少しだけ含まれていることから、自宅での排泄物処理に手袋をつけなければいけないなどの留意点がある中で、自宅には小さなお子さんがいるため管理できないという生活環境要因によっても、治療を断念し、家で最後の日まで何もできずに見守らなければならないと考えてしまっている飼い主様もいます。
しかし、自宅にいながら、環境要因の影響もできる限り少なくできるような治療プランとして、往診による緩和ケア及びターミナルケアがあります。
ご自宅にいながらでの診察・投薬を行うことができますので、ペットへの移動ストレス・輸送ストレスを最小限にすることができます。
腫瘍(癌)で動物病院への通院を断念し、ご自宅での緩和ケア及び看取りまでのターミナルケアを検討したいご家族様は、まずはお電話にて病状を教えてください。
一緒に何をしてあげられるのかを考えていき、最良の診療プランを考えていきましょう!
腫瘍性疾患のお話をした流れで、今日は乳腺腫瘍のわんちゃんのお話です。
乳腺腫瘍というのは、悪性腫瘍、いわゆる乳がんと良性腫瘍に分けられます。そしてその悪性腫瘍の中でも手術不適応と言われている、炎症性乳がんになってしまったわんちゃんのお話です。
今回ご紹介するのは、東京中央区在住のヒメちゃん、15歳の高齢犬です。
乳腺のしこりと出血(高齢犬/乳腺腫瘍/東京中央区)
ヒメちゃんは人が苦手でお外に行くと鳴いてしまうため、ほとんどお散歩せずに予防の時だけ頑張って動物病院に通院していました。
そんなヒメちゃんですが、1ヶ月ほど前から乳腺にしこりができて、それがみるみる大きくなって来て、出血して来たので診察をご希望され、お電話にて往診予約をいただきました。
往診専門動物病院わんにゃん保健室では、完全予約制でご自宅にて獣医師と動物看護師による診察を行っています。そのため、1診療に十分な時間をとることができ、ゆっくりとペットの状況をご相談していただけます。
往診獣医療チームがお家にご訪問すると、ヒメちゃんは怖がりなわんちゃんなため2階で待機していただき、まずはご家族様にお話をお伺いすることにしました。
ヒメちゃんはすごく元気で特に病気という病気はなかったそうなのですが、1ヶ月ほど前に乳腺にしこりのようなものを見つけたそうなのですが、ヒメちゃんの性格上、動物病院には連れて行けないため、そのままお家で様子を見ていたそうです。東京中央区在住の高齢犬ということで、近所には動物病院もあり、犬ということで連れ出せそうな感じはありますが、やはり動物病院に連れていくと、その後ぐったりしてご飯も何も食べれずに震えてしまうということでした。
最近になって、ヒメちゃんがやたらとお腹の方を気にしていたため見てみると、しこりがかなり大きくなっていて、出血していたため、たとえ悪いものであっても、もう高齢なので手術や積極的な治療はしたくない、ということで、お家でできる範囲の治療をご希望され、私たち往診専門動物病院わんにゃん保健室にご連絡して下さった、とのことでした。
今のところ、元気さは少し落ちて来たような気がする、とのことでしたが、食欲は変わらずで、まずはどういった腫瘍なのかを見てみることにしました。
ヒメちゃんを2階から連れてきてもらうと、お家だからなのか鳴いてしまうことはありませんでしたが、すごくビクビクしていました。
お腹の様子を見るために横になってもらうと、1つの乳腺でしこりが起こっている、というよりは、何個かの乳腺に渡って板状にしこりになっており、その中の一つがボコッと腫れてそこから出血しているようでした。
また、周囲は熱感があり、赤くもなっていて、これは普通の乳腺腫瘍ではなく、おそらく炎症性乳がんの可能性が高いかと思われ、また、腫瘍がある方の股のリンパ節も腫れていて、転移が疑われました。
一通り身体検査を行なった後、かなり炎症が起こっていることが予想され、また転移の可能性も高いので、血液検査を実施しました。
採血自体は細い針なので痛みはほとんどありませんが、おそらく足を伸ばすのが嫌で逃げようとしていましたが、往診専門動物病院わんにゃん保健室のスタッフもこういう子には慣れているので、素早く採血を終わらせて解放してあげました。するとそそくさと私たちから見えないお部屋に逃げて行き、安心できる場所に行けたようです。
おそらくかなりの痛みがあると考えられたため、抗炎症剤と出血部位からの感染を予防するために抗生剤をお渡しし、この日は終了としました。
血液検査では、白血球の上昇と炎症反応が見られ、やはり身体の中でかなり強い炎症が起こっていることが分かり、ご家族様に今後の方針をご相談することになりました。
ここで、炎症性乳がんという少し聞きなれない病気についてご説明いたします。
炎症性乳がんとは臨床診断で、強い炎症を伴っているように見える、かなり悪いタイプの乳腺腫瘍です。
そもそもわんちゃんの乳腺腫瘍は悪性と良性の確率は1:1と言われていますが、炎症性乳がんはその悪性腫瘍のうちの4%程度と言われています。
炎症性乳がんは、リンパ管や血管への浸潤スピードがかなり早く、発見した時には肺へ転移していることもしばしばで、身体の中でも強い炎症が起こっているので、血栓症になってしまう恐れもあります。
また、リンパ節が大きくなって、リンパ液の流れを阻害すると後ろ足が浮腫んでしまったり、乳腺自体もかなりの痛みを伴うので元気もなくなってしまいます。
通常の乳がんであれば、転移がなければ外科切除で完治することが多いのですが、炎症性乳がんの場合は手術不適応で、効果的な治療法はないと言われています。
炎症を和らげ、痛みを少しでも緩和する治療を行なっていくしかありません。
また、進行も早いため、ヒメちゃんもいつ肺に転移が起こったり、急激に悪化してしまうか分からないという状況でした。
このことを飼い主様とご相談した上で、今後どうしていくかをご相談した結果、痛みを取りつつ呼吸が止まったりしてしまった場合も救急処置は望まないとのことでしたので、最大限の疼痛緩和を目的としたターミナルケアを行なっていく方向となりました。
炎症性乳がんは急な変化となるので、心が追いつかない飼い主様もたくさんいらっしゃいます。
できるだけ楽に、その子らしく飼い主様といつも通り過ごしてもらうために、私たち往診専門動物病院わんにゃん保健室のスタッフは少しでもご協力できるように日々精進していますので、いつでもご相談して頂ければと思います。
ヒメちゃんは今もステロイド剤を飲みつつ様子を見ていますが、少し食欲が落ちてきているようなので、注射での投与が必要になるかもしれません。
そうなった場合も、お家でできるように、私たち往診専門動物病院わんにゃん保健室の獣医師がしっかりとご指導させて頂きます。
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