こんにちは!
往診専門動物病院わんにゃん保健室 往診獣医師の江本宏平です。
往診専門動物病院でよくお問い合わせいただく内容に、わんちゃんですと、大型犬で立てなくなってしまったので動物病院に連れて行かないための訪問依頼だったり、慢性疾患で週2~3回皮下点滴だけで動物病院に通院しているが、暑くなって来たため熱中症が気になるので往診してほしい、そして発作がひどいので少しでも刺激を少なくして家で余生を過ごさせてあげたい、なども挙がってきます。
日本の夏の暑さは尋常ではなく、昼間であれば容易に熱中症を引き起こせるほどであると考えています。
水分補給をしているから大丈夫、若いから大丈夫、ではなく、散歩などを含めて諸々の時間帯を考えてあげましょう!
また、慢性疾患(腎不全などの腎臓病、心不全などの心臓病、肝不全などの肝臓病)やがん(腫瘍)、発作持ち、そして大型犬(バーニーズ、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバーなど)やモサモサしているわんちゃん(シェルティーやボーダーコリーなど)では要注意です。
熱中症は命を落とす可能性がある病気ですので、くれぐれもご注意ください。
今回は発作が止まらないわんちゃんのお話です。
発作というと皆さんどういったものを想像されますか?全身で起こるけいれん発作でしょうか?それとも手足が震えるチックのようなものでしょうか?
発作の大きさに違いはありますが、どちらも発作です。全身で起こる発作を全発作、手の震えなど一部で起こる発作を部分発作と呼びます。
ではこれら発作の起こる原因は何でしょうか?
原因は様々なことを考えなければなりませんが、大きな外傷や誤食などがなければ大きく3つのことを考えます。
まず一つ目が脳の問題です。
脳腫瘍や脳炎、血栓、あるいは先天的な脳の異常など様々な問題が考えられますが、脳は外からは分からないため、確定診断をするためには麻酔をかけてMRIを撮る必要があります。
MRIによって脳の異常が見つかった場合には、どういった治療をするかご相談していきます。
次に内臓の疾患です。
肝臓や腎臓といった代謝に毒素の代謝をしている臓器の機能が落ちてしまったり、ホルモンを分泌している臓器の異常によって発作の原因になります。
肝機能が落ちてしまうと、アンモニアが体にたまって、肝性脳症という状態になってしまい、腎機能が落ちてしまうとアンモニアや尿毒素が体に蓄積してしまう尿毒症になって、それぞれ発作が起こる原因となります。
この場合には原因となるものがある場合にはそれを治療しますが、まずは点滴をしてそれぞれ体の毒素を流し出します。
あるいは、血糖値を調節しているホルモンが少なくなってしまうと、低血糖に伴い発作が起こることもあります。
最後は特発性といって原因がわからない発作です。
血液検査やほかの画像検査を行っても異常所見がない場合にこちらの診断となります。
原因が分からないため、発作の頻度が高ければ抗けいれん薬を使って発作を止める治療を行います。
こういった原因を考えなければならない発作ですが、発作が起こっていればまずは止めてあげることが先決です。
発作が長時間起こってしまうと、それだけで体はすごくエネルギーを消費します。そのため低血糖に陥ってしまったり、呼吸が止まってしまうこともあるのでなるべく早く止めなければなりません。
今回はそんな発作が続いてしまっていた高齢犬のお話です。
症例は東京千代田区在住の15歳の高齢犬のポンちゃんです。
ポンちゃんは発作のコントロールがなかなかできず、発作が起きれば近隣の動物病院に連れていって抗けいれん薬を注射して止めてもらうということを行っていましたが、発作回数が増えていき、何度も動物病院に連れていくことがかわいそうなので、お家での管理のご相談を希望され、往診専門動物病院わんにゃん保健室にご連絡を頂いたとのことでした。
メールでのご連絡でしたが、早めの診察をさせていただいたほうが良いと判断し、その日にお伺いさせていただくこととなりました。
お家に到着すると、ポンちゃんは別のお部屋で寝ていましたが、私たちがお顔を見ると興奮して鳴き始めてしまったため、とりあえず別のお部屋にてお話をお伺いしました。
現状では、近くの動物病院でもらっている抗けいれん薬を飲ませているとのことでしたが、それでも発作の回数はコントロールできておらず発作が起こるのが怖くて、飼い主様が最近まともに眠れていないとおっしゃっていました。
たしかに、発作が何度も続いていたり、動物の体調が悪いとなかなか眠れないというご家族様の声はよく耳にします。
しかし、ご家族様が疲弊して倒れてしまっては元も子もないので、私たち往診専門動物病院わんにゃん保健室ではご家族様、動物たちが安心して過ごせるように、治療法をご提案、ご相談させていただいています。
ポンちゃんはご飯もよく食べて、発作以外はすごく元気にしているとのことでしたが、以前椎間板ヘルニアを起こしてから立ち上がることができず、後肢麻痺が残っているという既往歴がありました。
元気食欲はあるとのことでしたが、発作の原因がないかどうか、また、現在の抗てんかん薬の血中濃度を調べるために、血液検査の実施をご提案させていただいたところ、ご同意頂けましたので、身体検査と血液検査を実施することとしました。
まずは身体検査です。
ご家族様以外に触られるのがすごく嫌なのか、近づくだけですごく興奮してしまうポンちゃんでしたので、顔の前でご家族様にあやしてもらいながら、すぐに身体検査を実施しました。身体検査ではたしかに後肢のマヒが認められましたが、前肢は正常で、大きな特筆所見はありませんでした。
その後採血を行い、ポンちゃんはすぐに開放しました。
また、万が一発作が起きた時のために、経鼻投与で使用できる抗てんかん薬をお渡しして、その日の診察は終了とし、薬物の血中濃度が出るころに再診としました。
血液検査では軽度に腎臓の数値の上昇が認められましたが、肝臓の数値は問題なく、内臓から発作につながるような血液検査は得られませんでした。
薬物の血中濃度は、最適な濃度の下限値あたりを維持できておりました。
十分な薬物の血中濃度があるにも関わらず、発作がコントロールできていない場合には、その薬物をさらに増やしてしまうと体の血中濃度が上がりすぎてしまうため、別の抗てんかん薬を足します。
1種類の抗てんかん薬の量を増やすよりも、何種類かの抗てんかん薬を少ない量で使うほうが体の副作用は少ないためです。
次の再診時では、初診日以降、発作が何度か起こったそうなのですが、経鼻投与で薬を使うことで発作はとまり、ポンちゃんもよく眠れていたとのことでした。
今回の血液検査結果をご説明し、抗てんかん薬をもう一種類増やすことをご提案させていただいたところ、ご同意頂けましたので抗てんかん薬をもう一種類処方し、2週間ほどで血中濃度が安定するため、2週間後に血中濃度を測定する予定です。
現在のところ、発作の回数は以前より減っているらしく、調子も良いとのことで、ご家族様もよく眠れているそうです。
私たち往診専門動物病院わんにゃん保健室では、ご家族様も動物たちも安心して過ごすことができることを第一に考え、続けていることができる治療法を一緒に考えていきます。
現在の治療でうまくいっていない、現在の治療が負担になっている、などお悩みがあれば、いつでも往診専門動物病院わんにゃん保健室にご相談ください。
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