猫ちゃんを飼っているご家族様の中には、少なからず「通院させること」に対して苦手意識をお持ちの方がいます。
それもそうです。ほとんどの猫ちゃんが、外出させることを嫌がります。
もちろん中にはキャリーに入ることをなんとも思わない猫ちゃんもいますが、個人的には避妊去勢手術をきっかけに「キャリー=怖いもの、痛いもの、嫌なもの」というような認識になっているのではないかと思います。
そのため、通院が苦手な猫ちゃんのほとんどが大病を患ってしまった以外は、動物病院へ通院させずに、ネット情報や知り合い情報、長年の経験などからの判断で、治るのを家で待ってしまっていることと思われます。
だとしても、ほとんどの病気は自己治癒力というか、恒常性の維持と言いますか、状態として安定したり治ってしまったりする印象があります。
とはいえ治らない病気もたくさんあり、もしそれらであった場合に、様子を見てしまったことが致命的な結果になってしまったということも多々起きていると思います。
今回の症例は、腎不全を患った猫ちゃんで、たまたま連絡が早かったので復活し、それから2年間闘病生活をした上で、ご自宅で長い眠りについたミケ猫のブーちゃん、18歳の避妊済みの女の子です。
もしこの症例と同じような症状が、ご自宅にいる猫ちゃんにも当てはまるのであれば、早めに獣医師に相談するようにしましょう。そして、具合が悪い猫ちゃんに対して、さらにストレスをかけることが厳しいと判断した場合には、ご自宅まで来てくれる往診専門動物病院を探しましょう。
往診までの経緯
ブーちゃんは、キトン(子猫)の頃にご家族様に公園で出会ったとのことでした。
その日は大雨だったのですが、なぜか気になった先の草むらに段ボールが置いてあって、そこに力強く鳴くブーちゃんの姿があったとのことです。
家に来た時に、鼻がブーブーいっていたことから、女の子ですが、ブーちゃんになったとのことでした。
近所にある動物病院に連れ家的、おそらく生後2ヶ月くらいと言われ、日を追ってワクチン接種、避妊手術と終わらせたとのことでした。
しかし、この避妊手術をきっかけにキャリーに入れようとすると失禁に脱糞を繰り返して奇声をあげるようになってしまったことから、動物病院に通院させることを断念し、避妊手術後の抜糸も、近所の獣医師に来てもらったとのことでした。
以来動物病院につれていくことはなく、基本的には元気で食欲旺盛な毎日を過ごせていたとのことでした。
そんなブーちゃんの体調に違和感を覚えたのは、16歳を過ぎた頃とのことでした。
なんとなく食欲に波が出てきて、食べない日は丸一日何も食べないこともあったとのことでした。
ちょうどこれくらいの時期から、嘔吐の頻度が週2〜3回程度になったとのことでした。
それでも、ご飯は1日食べなくても翌日には食べる、お水をいっぱい飲んでるからお腹がいっぱいなだけ、おしっこもたくさん出てるから平気、うんちは少し便秘気味だけど、出てるので大丈夫、と考えて過ごしてきてしまったとのことでした。
それから半年ほどで食欲が全体的に低くなってしまい、それに伴いお水を飲む量が増えたこと、体重がどんどん減ってきてしまったことなど、状態が下がってきた旨を伺いました。
今回往診をご依頼されたきっかけは、1週間ほど何も食べれなくなり、毎日3~4回ほど吐いてぐったりしているということで、もうだめかもしれないができることがあればしてあげたいとのことで、ターミナルケアを目的にご連絡いただきました。
動物病院と心の距離ができてしまうと、その距離はどんどん離れていく一方であり、その結果、ネットの情報に翻弄されてしまうということは多々あります。
できれば早めに、専門家や診てくれる獣医師に相談することをお勧めします。
初診時の診療内容
東京中央区にお住まいのぶーちゃんは、ご家族様に大人が4人もいる環境でしたので、ご自宅でのご家族様による皮下点滴環境の構築ができると判断しました。
お話をお伺いすると、全くと言っていいほどに動物病院から離れてしまっているようで、その原因はキャリーを嫌がったということだけでなく、近所にあった(当時は東京台東区)昔ながらの動物病院の先生に、そんなに騒ぐ猫は連れてくるなと言われたことがトラウマになってしまったとのことでした。
そんな獣医師もいると思いますが、最近はフレンドリーな先生も多くなってきていますので、もし獣医師に対するトラウマがある場合であれば、複数の動物病院に、ご家族様だけで訪れ、「結構暴れてしまう猫なのですが、それでも連れてきていいですか?」と尋ねてみてください。
ほとんどの動物病院で対策を教えてくれると思いますし、受け入れてもらえると思います。
暴れてしまう性格を含めて、それが猫ちゃんであり、そんな子たちに対して診療をおこなっているプロチームが獣医師や動物看護師率いる獣医療チームです。
ずっとご家族様だけで抱え込んでいた悩みをできる限りたくさん伺いました。
おそらくまだまだありますし、今回伺えた内容はほんの一部分かもしれませんが、これからも疑問や質問があれば、診療時に遠慮なく質問してもらいたいと思い、箇条書きでの質問リスト作成をご依頼させていただきました。
ブーちゃんの体調はというと、かなり悪そうではあるのですが、まだ立ち上がってフラフラしながらも自分でお水を飲みに行けていました。
ブーちゃんは人が好きなようで、お話を伺っている間はずっと輪の中にいてくれました。こんな子も珍しいのですが、おそらくどんな話をしているのかが気になっていたのかもしれないですね。
お話を聞いてみると、優先順位として腎不全が挙げられましたので、初診では血液検査で幅広く確認し、超音波検査で胸水貯留がないことだけを確認し、血液検査結果が揃ってから腹部超音波スクリーニング検査を実施することとしました。検査も処置も酸素ボンベを使用した酸素化を図りながら、呼吸に注意して診療を進めていきます。
ご家族様のご希望でご飯を食べさせてあげたいとのことでしたが、今日の今日で強制給餌をするのは危険であることをお伝えさせていただき、まずは3日間の集中的な診療プランを作りました。
薬は全て注射薬に絞り、皮下点滴を用いて投薬し、3日間は1日1回の往診としました。
さぁ、今日から診療開始です。少しの間毎日くるから頑張ろうね!
初診の翌日
やっぱりブーちゃんは強い猫ちゃんでした。
昨日の処置後から少しではありますが、ドライフードを食べてくれたそうです。
血液検査の院内スクリーニング検査にて暫定的に揃った結果からまずは腎臓の数値が高いことを確認し、この日から腎臓病の方に使いたい内服薬を使用することになりました。
腹部超音波検査にて、腎臓の血流量が少ないこと以外大きな異常を認めなかったことから、腎臓病からくる症状を安定させることに尽力しました。
その翌日
食欲も上がってきて、まさかのふらつきもやや改善してくるという様子を見せてくれました。
この日、ご家族様に皮下点滴の仕方をしっかりと指導させていただき、1週間分の道具のお渡しをすることに成功しました。
その後の様子
状態は安定し、最初は毎日の往診から、1週間に1回、2週間に1回、1ヶ月に1回となり、道具と薬のお渡し、診療時に血液検査と超音波検査をするまでとなりました。
現在も、1ヶ月に1回の往診で、状態を見ながらゆっくりとブーちゃんらしい生活を送れています。
当院までご連絡をいただく前までは、もうだめか、でも最後にできることをしてあげたいと思っていたとのことでした。
往診とは、単なる獣医療だけでなく、本当に困っているご家族様たちの心を支える存在であるべきだと考えています。
またこの生活に戻れるなんて思ってもいなかった、と伺った時には、私たちも治療に反応が出て、また飼い主様の心の支えになれた気がしてとても嬉しかったです。
今は通院で検査・治療を受けているが、今やっている内容を往診で切り替えることはできないかと思われた場合には、お近くの往診専門動物病院までご連絡してみましょう。きっと力になってくれると思います。
当院は東京23区を中心に獣医師1人、動物看護師1~2人程度で毎日訪問していますので、該当地域にお住まいで在宅医療への切り替えを検討されているご家族様や、家での看取りを考えたいご家族様、まずは当院までご連絡ください。
〜 ペットの緩和ケアと看取りのお話 〜
ペットの緩和ケアやターミナルケアをお考えのご家族様向けに参考ページを作成しました。
今後、もし慢性疾患など、治療による根治ではなく、症状や病状のコントロールのみと診断された場合、通院で今後も診てもらうか、在宅に切り替えるべきかを考える参考にしていただければと思います。
是非ご一読ください。
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