今回は、前回に引き続き、左鼻腔内腫瘍を発症した猫ちゃんのお話です。
前のブログは以下からどうぞ!
・がんになった猫の在宅緩和ケアと看取り(腫瘍/癌(がん)/ペット往診)1-4
・がんになった猫の在宅緩和ケアと看取り(腫瘍/癌(がん)/ペット往診)2-4
・がんになった猫の在宅緩和ケアと看取り(腫瘍/癌(がん)/ペット往診)3-4①
『もしも…』が起こってしまうのが、ターミナルと呼ばれる終末期です。
前回は発作について書かせていただきました。
今回は、吐血・喀血、下血、嘔吐、ぐったり、開口呼吸です。
吐血・喀血
あまり起こりづらいとは思いつつも、もし起きた場合には、もしかすると消化管粘膜に腫瘍細胞が浸潤した結果かもしれないとお伝えしました。
こちらに関しては、もし吐血を認めたら写真をとって共有していただき、お電話をいただくこととしました。
なお、吐血後の食事については、少量頻回としたいため、電話が繋がるまでは、吐血後の食事方法を少量頻回給餌とさせていただきました。
喀血は全く違ったもので、咳に血が混じったようなものを認めることがあります。
こちらは、きっとその咳から出てくる液体は赤というよりはピンク色のことが多く、この場合ですと腫瘍の肺転移に伴う肺水腫や肺の損傷を疑います。これを認めた場合には、早急に酸素室に入れてあげ、写真、動画の共有をお願いしました。
下血
猫ちゃんの腫瘍性疾患で、最も多いのが、リンパ腫という、今回の病気とはずれてしまいますが、そういうものがあります。
このリンパ腫には何個かのパターンがあり、その一つが消化器型リンパ腫というもので、猫ちゃんに多く起こります。
下血は大きく2つに別れ、鮮血なのか、黒色便なのか、です。
鮮血であれば、血が固まりづらくなっていることを意識していきますが、今回はすでに止血剤関連の医薬品が皮下点滴に含まれているため、特別対処はないことから、もし発症したらご連絡をいただき、状況を詳しく伺うことから始めましょうとしました。
そして、もし黒色便(タール便)であれば話は変わり、もう長くない可能性を示唆しているとお伝えしました。
日常生活の中で変えるべきことはなく、ただこれから一気に運動性が下がってきてしまうことと、貧血が一気に進行することで呼吸状態が悪化することも想定できるので、その時の対応についてご説明させていただきました。
経験上、このステージのメレナと呼ばれるタール便を認めると、なんとなく貧血が5%ずつ進んでいくような気がしています。これはあくまで個人的な見解ですので、参考程度に覚えておいてください。
嘔吐
基本、嘔吐は起きないような処方となっております。
犬猫たちのターミナルケアの現場では、嘔吐することで一気に状態が悪くなることが多いです。
例えば、ご飯を少しでも食べられていて、全然吐かない犬猫の場合でも、血液検査や超音波検査(エコー検査)所見などから、嘔吐が起こる可能性が高くなっている場合には、先制的に制吐剤(吐き気止め)を使用しています。
もちろん、こちらも選択制ですので、メリット・デメリットをお伝えした上で、常用として使用するのではなく、頓服として使用したいなどのご希望も承っています。
ここで覚えておくべきことは、吐き気止めには大きく2つあり、1つ目が吐き気を緩和する薬、2つ目が吐くことをほぼほぼ抑制する薬です。
1つ目の方が理にかなっていると思われますが、実際の獣医療の現場では、嘔吐がひどい場合や絶対に吐かせたくないと考えた時、2つ目を使用することが多いです。
ターミナルの現場では両方とも使用してあげることで、少しでも多く口にしてもらって、それが原因で吐いてしまわないように、医薬品の力を使って、ゆっくりと時間をかけて吸収できるように促してあげています。
ぐったり、そして開口呼吸
『急にぐったりした』『猫ちゃんの開口呼吸』は明らかな急変のサインです。
ここで重要な選択を迫らせていただきます。
延命は希望されますか?
延命と通院
元気だった犬猫が、急に具合が悪そうになった場合には、できる限り救急で動物病院へ通院させてあげてください。
もしかしたら誤飲や誤食などで、中毒のようなものや腸閉塞を起こしているのか、膵炎かもしれないし、持病が急激に悪化したのかもしれません。
日中であったり、まだかかりつけの動物病院が診療中であれば、飛び込んでください。
夜間であれば、夜間受付をしている動物病院へ飛び込んでください。
あなたには、待てる猶予など、1分もないはずです。
緊急で犬猫を通院させ、検査し、入院治療を受けさせてあげ、安定したら、また家に帰って来れて、今まで通りの生活が戻ってくる。
きっとこんな想像ができるからこその決断と行動だと思います。
では、今のこの猫ちゃんではどうでしょうか?
左鼻腔内腺癌を発症し、肺に転移を起こしている可能性が高い状態で、もし急変した場合に、苦手な通院をさせて、入院治療を受けさせれば、また元の生活が戻ってくると思えますか?
そして、また急変を繰り返します。
その度に、動物病院への通院と入院を繰り返しますか?
移動中に、病院での検査中に、入院中に、亡くなることが十分に考えられる状態であることを、忘れないでください。
夜間救急の責務は、命を繋ぎ安定させ、日中のかかりつけの動物病院へ犬猫たちを返すことであり、かかりつけの動物病院の責務は、その犬猫たちが安心して家に戻れるようにアシストすることです。
今という終末期ステージでは、これって延命なるのでしょうか?
多くの飼い主様が、もう急変しても連れて行かないとされます。
もっと長く生きていてほしいという本心はあるものの、苦しみながら長らえるのは可哀想だと判断されることが多いです。
しかし、延命という強い言葉は、家族であっても暗黙の了解のように口にできないキーワードですので、あえて私たちが言葉にすることで、話し合えるきっかけを作らせていただいています。
万が一の時、その場に立ち会っている人が全てを判断しなくてはいけません。
それがお母さんなのか、お姉さんなのか。
その判断は、後からそれでよかったと背中を撫でられたところで、その判断をした人が責任を感じてしまうものです。
だからこそ、事前にどうなったらどうするのかという家族としての指針を立てるべきなのです。
愛犬、愛猫とずっと一緒に暮らしてきた家族だからこそ、目の前が苦しんでいるこの子たちに何をしてあげるべきなのかを話し合えるものだと思っています。
今回は、お姉さんも、お母さんも、急変時に通院させることはせず、家でのそのまま看取ることを決意されたようでした。
ただ、これはあくまで現時点での意志であり、数分後には変わっていても全く問題ないです。
一緒に最良となる方針を立てていきましょう。
今回のまとめ
前回の『発作』に続き、『吐血・喀血、下血、嘔吐、ぐったり、開口呼吸』について書かせていただきました。
愛犬、愛猫がどんな形で最後の時間を過ごしていくのか、旅立つときは苦しいのか、どんな症状を見せるのか、など、飼い主様ごとで相談される内容は様々ですが、これらの質問は必ずされています。
いざその場になってみなければ、実際のところわかりかねてしまうのが正直なところではありますが、経験上であったり、血液検査や超音波検査などの検査結果、診断された病気などを参考に、ある程度想定される最後の形についてご説明させていただいています。
万が一の時をただ怖がって待っているより、もしその時が来たらどうすればいいのか、というアクションプランを明確にすることで、ただ怖がっていたはずの未来が、知識と医薬品という武器を持って、戦えるようになれます。
完璧な飼い主になる必要はないです。
一緒に最後まで頑張っていきましょう!
次回は、ターミナルケア、そしてお別れです。
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