猫ちゃんの病気というと、きっと多くの方で、「腎臓病」という言葉が最初に浮かんでくると思います。
もちろん、ほとんどの猫ちゃんで腎臓病を抱えますので、定期的な検査をしてあげることを推奨します。
ただ、猫ちゃんの多くで通院を苦手としているため、健康診断目的に通院させて、帰宅後にぐったりさせてしまうくらいなら、いっそのこと往診で在宅診療による健康診断を選択することも可能です。
往診では、血液検査、超音波検査、尿検査など、大型機器を必要としない検査は実施可能です。
また、検査は安全性を確保するため、獣医師と動物看護師1〜3名ほどでお伺いさせていただきます。
何事も手際よくスムーズに実施することで、猫ちゃんにかかるストレスを最小限まで下げてあげることを大切にし、開放後、速やかに安心できる場所に隠れさせてあげられるよう、動線確保にもご協力をいただいています。
本日は主疾患が腎臓病でははなく、私たち人間と同じ、旅立ち要因として最も多く挙げられる、腫瘍性疾患についてです。
かかりつけ動物病院にて、膵十二指腸リンパ節のFNA(細胞診)を実施し、大細胞性リンパ腫と診断された日本猫のみゆちゃんの在宅医療についてのお話です。
初診が2022年11月で、年越しは難しいとされていた中で、2023年1月初旬までは安定してくれて、そこから少しずつ状態が下がりつつも、2月13日現在、今日もお母さん、お父さんとゆっくりと過ごせています。
初診時の問診内容
2022年3月くらいから徐々に体重が減少してきた感じはありましたが、まだまだ全身状態は良好でした。
この時通院していた動物病院では、体重減少に対して相談したところ、特別何もせずに様子見とされたとのことでした。
しかし2022年8月になると体調不良を訴え始め、ただ本格的に食欲がなくなってしまい、ご飯を食べられなくなってきたのは2022年10月9日からとのことでした。
2022年11月5日に状態がおかしいと感じ、11月7日に少し大きめの動物医療センターに転院し検査したところ、膵十二指腸リンパ節が腫脹していると指摘され、細胞診の結果悪性のリンパ腫と言われたとのこと。
このから2日間連続で抗がん剤治療を通院で行い、また毎日通院させて皮下点滴を打つようプランとされたとのことでした。
内服薬を4種類処方されており、ただ内服薬は状態が悪い中でも、まだ元気なうちしか飲ませられないため、今後どうすべきか悩まれていたとのことでした。
2022年11月17日、本来であればこの日も通院の予定でしたが、ぐったりとしている姿を見て、もう皮下点滴のために毎日通院することは体力的に難しいと判断し、在宅に切り替えて看取ってあげたいと考え、往診を希望されました。
初診時の様子
ほぼ寝たきりのみゆちゃんですが、まだお家の中を歩く体力はありそうでした。
食欲はもう無さそうで、排便もずっとできていませんでした。
それでも、お水は自分から飲みに行けて、おしっこも1日に3回は自力でトイレでできていました。
呼吸状態も安定しており、咳もありませんでした。
ただ、初診前夜に嘔吐をしてしまったとのことでした。
みゆちゃんが抱えている病気はリンパ腫であることから、今後もしかすると胸水が溜まってきてしまう可能性があります。
初診時検査
当院では、初診時に全身状態を把握するためにも血液検査を含めた、各種検査を実施しています。
しかし、今回は前日の検査結果が手元にあることもあり、大きく変化が出ていないとと判断したため、それらのデータを用いて診療プランを決定する、初回カウンセリングとして診療を進めました。
診断がついている病気であったり、また過去の検査結果が数日前のものであったりする場合には、無理に検査して負担をかけるより、まずはそのデータを持って今後のプランを組み立てたほうがいいとする場合があります。
ただ、もちろん検査が全てではないですが、できれば検査をしてあげたいと考えています。
とはいうものの、在宅での検査であっても、保定や捕獲などによるストレスは、多少なりともかかってしまうものです。
しかし、移動を伴わないため、検査・処置後に好きな場所にすぐ隠れられるという大きなメリットがあるので、通院が苦手な犬猫には、往診はおすすめです。
診療を進める上で、現状把握を優先すべきか、過去のデータと今得られる視診や望診、一般身体検査から得られたデータのみで診療を進めていくべきか、常に葛藤しています。
処置
今回みゆちゃんは、初回カウンセリングとして状況を判断し、皮下点滴に6種類の医薬品を混ぜて投与しました。
また、腫瘍性疾患であり、脱水補正のための皮下点滴ではないので、投与量も20ml/kg未満の50mlとしたこともあり、処置中もあまり嫌がることなく、静かに受けてくれました。
今後のプラン
まずは3日間連続、1日1回の往診とし、状態に合わせて医薬品の量や種類を調整することとしました。
なお、内服薬は全部中止としました。
先述した通り、猫ちゃんで内服薬を飲めるのは、ほんの一部であり、また状態がまだいい時までです。
状態が下がってしまった時からは、できる限り注射にできる薬は注射で投与してあげ、どうしても内服でしかダメなものだけを経口投与するようにしましょう。
お薬の優先順位を立てて、全部飲めなくても良しとする心構えが大切になってくる時期です。
少しでも状態が安定し、お父さん、お母さんと一緒に過ごせる時間を今よりも快適にできればと祈りました。
なお現段階では、物理的な抜去は痛みを伴うこともあり、積極的に胸水抜去はしない方針としています。
胸水抜去の時には、特に猫ちゃんでは、往診だと鎮静麻酔をかけることが多いです。
そのくらい、肋間を針が貫くときに痛みがあるということです。
今回のまとめ
今回のブログでは、リンパ腫を抱えた猫ちゃんの在宅医療の初診について書かせていただきました。
いつまで攻めるべきなのか、抗がん剤を使用することが正しいのか、やめてしまうことが間違っているのか。
答えなんてありません。ただ言えるのは、最終的に判断するのはご家族様、ということです。
ご家族様と愛猫、愛犬との間には、深くて長いストーリーが存在します。
もしかしたら、今までの経緯の中に、今この段階で緩和に使える出来事があるかもしれません。
在宅での緩和ケアは医療面だけでなく、生活環境や介護面など多岐にわたる視点から実施することで、より良い診療プランを組むことができます。
そのため、初診ではご家族様の声をしっかりとヒアリングすることに重点を置いて、診療をおこなっています。
どんな悩みがあり、今この子たちに対して何をしてあげたいのか、現実問題としてどこまでできるのか、など、まずはお話をお伺いさせていただき、一緒に考えていきましょう。
次回は、在宅で【リンパ腫と向き合う②(その後の診療経過)】です^^
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