病気は同時に、別々のものが発症しないと思ってます。
とはいえ、立証できないことや、もちろんそういった事例もあるとも思います。
ただ、大体のケースで、ストーリー性に病気が発症し、どれが原疾患だったのかを追求することが、完治であったり、緩和ケアだったりの初手につながると考えています。
今回お話しする「猫ちゃんの扁平上皮癌」の終末期ケアですが、もともとはかかりつけの動物病院で治療を受けていました。
徐々にご飯を食べられなくなり、ふらつきも見え始める中、それでも通院するたびに普段出さない鳴き声を出すことから、在宅での終末期ケアに切り替えた症例のお話です。
緩和ケアプランは、犬猫の病気だけでなく、性格や取り巻く環境、ご家族様が何を求めるのかによって異なってきます。
予約時の電話内容
2ヶ月ほど前に、口を気にすることを主訴にかかりつけの動物病院へ通院したところ、扁平上皮癌の可能性があると言われ、すぐに2次医療施設を紹介受診し、確定診断を受けたとのことでした。
年齢は12歳であり、抗がん剤などの説明を受けましたが、入院や高頻度での通院には向かない性格だったことから断念したとのことでした。
かかりつけの動物病院の獣医師と相談し、緩和ケアに切り替えることで進めていましたが、最初は頑張れていた内服薬の投与も、食欲の低下とともに、徐々に難しくなり、もう内服は厳しいいと思い動物病院に相談したところ、往診専門動物病院があることを教えてもらい、当院を紹介されたとのことでした。
すぐに予約を確定し、翌日訪問することとなりました。
当院は、東京23区を中心に、23区外、千葉、埼玉、神奈川を含む近隣エリアまで往診対応しております。
最近では、動物病院からの紹介が増えておりますが、まだまだご家族様自身で探し当ててご連絡をいただくことのほうが多いです。
今回のケースでは、経過報告書もいただけるとのことから、現在までにどんな治療をしてきたのかなどがわかるため、スムーズに診察に入れました。
初診時
ふらつきながらも、悠々自適に家の中を歩いており、初対面の私たちに擦り寄ってきてくれるほど人懐っこい性格の猫ちゃんでした。
食事は猫ちゃん自身でお皿から食べることは難しく、ご家族様が口の奥の方にペースト状のご飯を入れてあげると飲み込んでくれるという状態でした。
排便は3日前が最後でころっとしたものを1粒、排尿は普段と変わらずできているとのことでした
飲水はできているが、お皿の水が目立って減っているような印象はないとのことでした。
咳もなく、呼吸状態も安定していました。
家族構成はお父さん、お母さんの二人暮らし。
お父さんはカレンダー通りのお休みで、お母さんはこの病気の発覚を機に、お仕事を辞めて常に在宅されているとのことでした。
環境としては、猫ちゃんの看護、介護ができる大人が2人以上いるため、大体のプランを組むことが可能であると判断しました。
いただいた紹介状にもあったように、扁平上皮癌の終末期ケアを中心とした緩和ケアプランを作成することで、診療を進めます。
今までの血液検査結果を拝見すると、至って正常であることが、こういった病気の特徴だったりもします。
肝臓腫瘍などの場合には肝数値と言われる項目に変化が見えるのですが、扁平上皮癌やリンパ腫などで、臓器に浸潤していないものの場合には、体調不良を主訴に血液検査を時失したが特別異常所見がなく、画像検査をしたら見つかったというケースが多いです。
そのため、検査は負担のかかりすぎない範囲で、できる限り広く実施してあげることが、私としては重要だと考えています。
金額面で許容することが難しい場合には、必ず実施前に獣医師から説明があるかと思いますので、そこで相談するようにしましょう。
検査は検査であり、処置は処置。
検査して、治療を続ける費用が難しくならないように、包み隠さず相談するようにしましょう。
この日から在宅緩和ケアプランを実施していただくこととしました。
この猫ちゃんの場合、肝臓や腎臓、膵臓に問題がないことから1日2回の注射薬を用いた皮下点滴、痛み止めは1日3回の皮下投与をお願いしました。
液量もかなり少なく設定できるため、猫ちゃんに刺す針の太さも一番細い、子猫用の針としいて選択されるもので実施していただきます。
これから毎日刺すことから、針の太さはとても大切な選択ポイントです。
ただ、細ければいいっていうこともなく、長くじっとしていられないタイプの犬猫の場合には針を少し太くしたり、液量をたくさん入れなければいけない場合には、一番太いものを選択することもあります。
皮下点滴1つをとっても、何のために実施するのか、実施環境はどこまで整っているのかなどを明確にすれば、自ずとどんな道具選択が一番いいのかを導き出すことができます。
食事は好きなものをあげるようにお伝えしました。
口の痛みは、医薬品の力である程度緩和できます。
少しでも、最後に食べたいものを探してあげるようにお伝えしました。
その後の流れ
初診時に、すでに皮下点滴指導が完了し、そのほかにも頓服薬指導なども完了したため、以降は週1回の往診としました。
毎週の往診では、超音波検査による胸水や腹水の貯留がないかを評価し、状態にあった医薬品を調整してお渡ししていました。
初診後すぐに食欲がグッと上がり、ご飯を久しぶりに猫ちゃん自身で食べてくれたとのことでした。
ジャンプもできるようになり、大好きだったソファーの上に、猫ちゃん自身で飛び乗ることができたとのことでした。
初診から4 週間、安定した終末期を過ごせていましたが、5週間目には徐々にまたふらつきが出始め、同時に食欲がグッと下がってきました。
食欲増進を期待する軟膏も処方しましたが、効果は認めませんでした。
初診から6週間目、呼吸が荒くなってきたことを受け、酸素環境を構築することとなりました。
酸素濃度は45%でも呼吸が荒く、55%でようやく落ち着きました。
酸素室内で久しぶりに立ち上がり、ゴロゴロいっている姿を見ることができました。
酸素室設置から6日後、お父さんの帰宅を待っていたかのように、そのタイミングで旅立ちました。
猫の扁平上皮癌の在宅終末期ケア
今回の症例では、皮下点滴を1日2回+痛み止め注射を1日3回で組ませていただきました。
そして、呼吸状態に合わせて酸素室を設置し、酸素環境を整えることができました。
何をどこまでしてあげたいのかは、全てご家族様次第であり、その意向に沿って診療プランであったり、処方内容や在宅での処置プランを組んでいきます。
動物病院では何もできないとされ、家で看取ってくださいとされた時から、初めて往診専門動物病院を探すご家族様がほとんどの中、このように動物病院から紹介をしていただくことが叶えば、スムーズに診療に入ることができます。
少しでも広く、動物病院に往診専門動物病院の存在を認知していただき、命のバトンを途絶えることなく受け渡せる社会がくることを願っています。
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