腫瘍(がん)に罹患した犬猫の多くは、血液検査などで評価できる腎臓や肝臓などの数値に、特別な異常所見を認めないことが多いです。
病気は同時に2つ以上生じないという考え方があり、2つ以上の病気が同時に存在するときには、おそらくストーリー性を持ってどちらかが先で、その結果次の病気を作っていると考えることが多いなという印象を持っています。
犬猫で在宅緩和ケアを選択で大切なことは、「後ろから考える」ことです。
これは、厳しい言葉になりますが、とても大切なことなので、是非覚えておいてほしいです。
①何か症状があったときには、②検査を行い、③検査結果を踏まえた治療プランを組んでいきます。
例えばその治療プランは、すでにもう望んでいないものであるのならば、その一つ前にある検査は、必要なのでしょうか。
もちろんまだ若く体力のある犬猫において、治療プランに全力で臨んでほしいと思っていますが、その治療プランの先には、まだまだ精査の過程で全身麻酔や侵襲性の高い組織生検など、いろんなことが構えているかもしれません。
しっかりと担当医から的確な情報をもらい、その内容を持ち帰って家族で話し合い、家族としての決断をしてください。
今回話すのは、高齢期の猫ちゃんで、乳腺腫瘍の肺転移が確認された症例についてです。
高齢猫(17歳)の乳腺腫瘍
1年ほど前に乳腺のしこりを見つけ、動物病院に通院したところ乳腺腫瘍と言われ、片側切除と所属リンパ節までの摘出を行いました。
広範囲の組織を摘出するため、痛みが強いこともありますが、何より猫ちゃんに恐怖が強く染み付いてしまったようで、キャリーを見るたびに震えて泡を吹くようになってしまったとのことでした。
そしてその2ヶ月後、反対側にもしこりが見つかり、おそらく乳腺腫瘍であるとされましたが、前回の手術の時のぐったり感がもう可哀想だと考え、外科を断念しました。
外科手術は断念しましたが、2週間に1回の検診で肺のX線検査(レントゲン検査)を行なっていたのですが、片側での乳腺腫瘍確認後3ヶ月で、肺転移を認める所見が、見つかりました。
まだ呼吸状態の悪化などが伴うことなく経過観察を行なっていた中での発見で、すでに通院後に元気がなくなるという所見はあったのですが、それが目立ってきたということもあり、抗がん剤や外科手術などを行わないのであればと、通院しないで済む「在宅緩和ケア」に切り替えたいと、ご相談を受けました。
ご自宅に訪問すると、まだ元気で食欲なども衰えていない様子でしたが、少しだけ呼吸に違和感を感じる様子を見受け、ご家族様にそのことを確認したところ、1週間ほど前からキャットタワーに登らなくなったことがわかりました。
猫の緩和ケアを進める上で大切なことは、①猫自身のストレスを最小限にする、②必要な検査は状態に応じて行う、③私たちのような外部の人間が猫と接触する頻度を下げる、ことだと考えています。
猫のストレスばかりを優先してしまうと、現状を把握することが叶わなくなり、結果として十分な緩和ケアを導入することができません。
例えば、最後まで皮下点滴をした結果苦しんだ、というブログをいろいろな場所で拝見しますが、おそらく循環や代謝を鑑みずに決められた液量で実施した結果だったと考えています。
肺転移を伴った猫ちゃんへの内服薬などの経口投与は、かなりハードルが高いと思って過言ではないです。
痛みが出始めたときや咳が始まった時、そして呼吸悪化を認めた時など、乳腺腫瘍の肺転移で予想できる体調の変化に対して、事前に何ができるのかなどを相談し準備することで、家族として「できる環境」を構築していきました。
酸素環境を徹底し、皮下投与に徹してもらい、最後まで一緒に走り抜けました。
当院の往診への在宅緩和ケア切り替えから105日目、お母さんの腕の中で眠りにつきました。
最後は少し苦しい時間を過ごさせてしまったけど、ほんの一瞬だけの苦しみで旅立てたことが何より嬉しかったと、お別れのご挨拶で伺った際に、ご家族様が言ってました。
肺転移では、何よりも酸素環境に徹することを推奨しています。
「酸素発生装置を1台レンタルして、酸素ハウスがあればもう大丈夫、むしろこれしか方法がない...」
そんなことはないです。
酸素環境について、またどこかで詳しく話せればと思います。
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