肝臓は沈黙の臓器と言われるくらい、症状を示さないことで有名です。
肝臓がダメージを受けると、なんとなく倦怠感があったりする程度であり、なんとなく食欲が少なめのような、寝ている時間が長いような気がするといった感じが多いです。
明確な症状として気づくのは、黄疸が出た頃かなと思います。
ただ、肝臓がんの場合は別です。
今回の症例は、ふらつきをきっかけに肝臓腫瘍が見つかり、通院にて抗がん剤を頑張り、最後は在宅にて終末期ケアを実施しました。
定期検診をしていても見逃されやすい肝臓疾患ですが、とはいえ定期検診は最重要項目ですので、犬猫と暮らしているご家族様は、必ず実施してあげるように心がけてくださいね!
今回は、前回に続いて、肝臓腫瘍の終末期ケアを迎えた風太くんのお話です。
初診までの流れはこちらをどうぞ^^
【在宅終末期ケア2日目(5月5日)】
昨日の処置に反応してくれたため、この日はとても調子がいいとのことでした。
そのため、少し早いですが皮下点滴の指導を行い、ご家族様だけでの在宅点滴に切り替えることができました。
皮下点滴の実施前後も含め、風太くんはちゃんとわかってくれているのか、そこまで嫌がらずに受け入れてくれていました。
そんな風太くんを前に、お母さんもお父さんも安心してトレーニングに集中することができました。
皮下点滴指導は、ご家族様だけでの在宅皮下点滴への切り替えプランを組み込む前に、当院では必ず行なっています。
もしすでに家での皮下点滴ができるご家族様の場合には、一度流れを見させていただき、問題がなければそのままお渡しさせていただいています。
ちなみに、もとも多く見かける誤認操作は、「空気抜き不足」や「道具の使い回し」です。
皮下点滴ですので多少の空気であれば問題になることは少ないですが、大量に入ってしまうと大変です。
道具の使い回しに関して、50mlシリンジ(注射器)などを何度も繰り返し使用している方がいます。
基本的にディスポーザブルと言って「使い捨て」であるため、衛生面を考えて再利用は控えた方が無難です。
診察2日目をもって、ご家族様だけでの在宅皮下点滴ができるようになりました^^
また、この日は酸素発生装置も準備されていました。
この時点での酸素発生装置の運用方法は、呼吸が辛い時に、都度嗅がせてもらうこととしていました。
酸素発生装置の準備と聞くと、「ずっと酸素室の中で生活させないといけない」と思いがちですが、そんなことはなく、生活の補助としてご使用いただきます。
苦しそうな時に鼻先に吹きかけるのか、風があたるのが苦手ならば、簡易的は囲いなどを作って多少の充満空間を構築するのか。
犬猫ごとに、酸素発生装置の運用方法は異なってきます。
もしかかりつけの動物病院で酸素発生装置を準備してもらいましたら、酸素発生装置の運用方法について詳しく習うことをお勧めします。
【在宅終末期ケア3日目(5月7日)】
前回の診察からの2日間、昼間は元気そうに過ごせているものの、夜になると辛そうにするとのことでした。
明け方まで顔をあげて全身で呼吸していたので、付きっきりで酸素を嗅がせてあげていたとのことです。
酸素発生装置が家に準備されていたので、苦しくなっても安心して対策を打つことができ、落ち着いてからはぐっすりと寝てくれていたとのことです。
まるで夢を見ているような、ここ数日の中で一番楽そうに寝ていたとのことでした^^
終末期ケアの中で見える、この子たちの幸せそうな寝顔は、近くで看病してくれているお父さん、お母さんの心をどれだけ潤してくれるか。
ペットの終末期ケアは、決して辛いだけじゃなく、向き合い方さえ理解できれば、心温かい時間として深く想い出に刻まれることと思っています。
風太くんはお外が大好きなため、できる限りお外に出してあげるような指示を出させていただきました。
終末期だからといって、ずっと家の中で塞ぎ込んでいなければいけないわけではなく、少しでもペットにとって嬉しいこと幸せな時間をプレゼントできるようなプラン組みを目指しています。
往診専門動物病院わんにゃん保健室では、終末期で酸素室から出せないくらい呼吸状態が悪くなったとしても、リビング内であれば動き回れる可能性を残してあげるため、酸素をうまく利用しながらの生活環境構築を、ご家族様と一緒に目指していきます。
【在宅終末期ケア23日目(5月27日)】
徐々にお散歩できる距離が1km、500m、400m、300mと徐々に短くなってきました。
夜にお父さんが帰宅すると嬉しくて興奮してしまい、そのまま倒れて伏せてしまうようなことが続いたとのことでした。
ただ、食欲は健在で、いつもの量を完食してくれていました。
その後、再度お散歩に行けるか試そうとしたが、難しそうだと判断し、お散歩を断念したとのことでした。
診察時には、可視粘膜の白さがさらに増しており、酸素なしの大気中で生活できている時間があることが不思議なくらいでした。
お話をお伺いすると、夜に皮下点滴をしてあげていて、翌日の夕方くらいから少し体調が下がってくるとのことが伺え、もしかすると薬の効果が短くなってきていることが疑われました。
終末期ケアでは、少しでも苦しくない時間を過ごせるよう、常に細かくヒアリングさせていただき、対策が打てることがないかをご家族様と検討していきます。
ご相談の上、この日から皮下点滴回数を1日1回から2回に増やしました。
【在宅終末期ケア30日目(6月3日)】
この1週間の間、医薬品の頻度をあげることで、倒れることなく過ごせたとのことでした^^
このまま少しでも安定した日々が続くことを祈りました。
【在宅終末期ケア44日目(6月17日)】
もう外出させるのは難しくなり、ハーネスをつけて出してはみたものの、手足で体重を維持することはできなかったとのことでした。
食事量は少し減ってしまったものの、まだまだ食べてくれていて、ご飯皿から外にこぼして食べるという、風太くんなりの食事ルーティンを作っていたとのことでした^^
立てなくなってしまったことから、医薬品の量を増やし、許容上限まであげて様子を見ることとしました。
終末期における医薬品を、ある種のドーピングのように捉えられている方も少ないと思います。
しかし、用途を絞り、ターゲットとなる症状を明確にすることで、弱々しくなる体の反応を維持したり、吐き気や痛みなどを緩和したりすることが期待されます。
【ここまで】
終末期ケアを在宅で迎えることは、決して楽なことではないです。
目の前で弱りゆく大切な愛犬、愛猫を前に、心強く最後まで寄り添っていく。
通常の回復が期待できる病気の介護や看病と大きくのは、「回復しない」ということです。
何をしても、必ず病状は進行していき、努力や期待とは裏腹に、苦しそうな表情を見せるこの子たちの顔を見ていなければいけません。
もし今お一人で悩まれているご家族様がいらっしゃいましたら、まずはかかりつけの動物病院に相談し、もし難しいようであれば往診専門動物病院までお問い合わせください。
東京23区とその近郊であれば、私たち、往診専門動物病院わんにゃん保健室が、ご家族様のもとに駆けつけます。
次回、看取りまでのお話です。
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